免疫原性は生物学的製剤の使用における課題の1つとして重要だが、抗薬物抗体(ADA)の動態に影響を及ぼす因子についての報告は少ない。スウェーデン・Uppsala UniversityのRory Leisegang氏らは、視神経脊髄炎スペクトラム障害(NMOSD)治療薬であるヒト化抗IL-6受容体抗体サトラリズマブ皮下注射後のADA動態について検討。同薬に対するADA生成にBMI高値と同薬の薬剤曝露量が関連しており、薬剤曝露量が多いほど力価の高いADA陽性となる傾向があり、時間の経過とともにADA陽性率が低下することをCPT Pharmacometrics Syst Pharmacol2024年10月8日オンライン版)に発表した。

二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験などのデータを解析

 Leisegang氏らはNMOSD患者を対象とした第Ⅲ相二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験SAkuraSky、二重盲検並行群間プラセボ対照ランダム化比較試験SAkuraStar、健常人を対象とした第Ⅰ相単回投与試験SA-001JPについてサトラリズマブ血清濃度、時間-薬物動態、人口統計学的情報、背景治療情報、ADAの状態および力価の解析を行った。解析には確率モデルの1つである混合隠れマルコフモデルを使用した。

 SAkuraSkyはアクアポリン(AQP)-4抗体が陽性または陰性の12~74歳のNMOSD患者を対象とし、アザチオプリン、ミコフェノール酸モフェチル、経口コルチコステロイドを含む免疫抑制薬による治療に加え、サトラリズマブ120mgまたはプラセボを0、2、4週目およびその後4週ごとに皮下投与する群に1:1でランダムに割り付けた。SAkuraStarはAQP-4抗体陽性または陰性の18~74歳のNMOSD患者を対象とし、サトラリズマブ120mgまたはプラセボを0、2、4週目に皮下投与する群に2:1で割り付けた。SA-001JPでは健常人にサトラリズマブ30~240mgを単回投与した。

213人1,843件の薬物動態、154例3,805件のADAデータを解析

 3つの臨床試験から合計226人、5,126件の薬物サンプルのデータを得た。薬物動態のデータは横断的データを集積した。除外基準は、①サトラリズマブ濃度が定量限界未満(402件)、②採取時刻が不明(9件)、③ADA力価評価がゼロでなくなった日以降にサンプルを採取した(2,872件)―とし、合計213人、1,843件が解析対象となった。

 ADAの情報は、SAkuraSkyおよびSAkuraStarの縦断的ADA力価データに基づく。SAkuraSkyでは58/80例(72.5%)、SAkuraStarでは34/65例(52.3%)で少なくとも1件のADA陽性が検出された。ADAモデルの開発に使用されたデータセットには、154例3,805件のデータが含まれた。ADAモデルの共変量としては、体重、BMI、年齢、性別、C反応性蛋白(CRP)、個々の患者の併用薬の情報が評価された。

BMI 31.5では50%の確率で3カ月後にADA陽性に

 混合隠れマルコフモデルを使用し、非ADA産生例の静的状態、一過性のADA陰性および陽性が動的かつ相互に連結した3つの状態の関連を検討した。その結果、治療開始からの時間が長く、BMIが低く曝露量が少ないほどADA陽性率は低いことが示された。

 BMIが31.5(75パーセンタイル)と高値の場合、ADA陽性率は約3カ月でピーク(50%)に達したが、BMIが18.5(25パーセンタイル)と低値の場合、ADA陽性率は約3カ月でピーク(23%)に達した。BMIが高いほど、最初にADA一過性陰性となる確率が高く、ADA一過性陽性に移行するまでの期間が長くADA陽性を維持する可能性が高いことと関連していた。

 80μg/mL(75パーセンタイル)の高曝露では、ADA陽性率は最初の1年間でピーク(41%)に達し、30μg/mL(25パーセンタイル)の低曝露では、ADA陽性率は最初の1年間でピーク(34%)に達した。高曝露はADA陽性に移行するまでの期間は短いが、ADA力価が高く、短期的にADA陽性を維持する確率が高く、最初の6カ月間はADAを呈する確率がわずかに高いもののその後は低下することと関連していた。

 Leisegang氏らは「サトラリズマブを投与されたNMOSD患者におけるADAの動態を混合隠れマルコフモデルで記述できることが示された」と結論。「ADAの動態を理解することは、特に臨床的に関連する可能性のある有効性の低下や安全性シグナルの増加が考慮される場合には重要である」とした上で、「ADA陽性となるパターンと原因を理解することで、ADAの出現を抑え、影響を抑制するための戦略を立てられる可能性がある」と述べている。

編集部・栗原裕美