福島県立医科大学会津医療センター漢方医学講座准教授の畝田一司氏らは、国内の医師を対象にオンライン調査を実施し、漢方診療の実態と課題について検討。その結果、日常診療に漢方薬を活用している医師は約9割と多かった半面、漢方医学的診断である「証」に準拠しない漢方診療が行われるケースも多く、漢方薬の処方を支援するシステムや教育体制の充実などが求められるとTradit Kampo Med2024; 11: 156-166)に報告した。(関連記事「漢方薬の副作用、注意点と対処法」)

「証」は有効性と安全性の担保に重要

 漢方医学は日本の伝統医学の1つである。患者の病態を漢方医学の視点で分析して得られる「証」は西洋医学の病名とは別の概念で、漢方医学の有効性と安全性の担保に重要とされる(関連記事:中国に「漢方薬」はありません)。

 2001年に作成された「医学教育・モデル・コア・カリキュラム」に漢方医学の内容が盛り込まれ、漢方薬の活用が広がっている。一方で、卒後の教育機会に恵まれない医師も多い。

 畝田氏らは、国内の医師向け情報サイトの会員を対象に漢方薬の使用実態や問題意識を調査し、医師652人から有効回答を得た。年齢層は20歳代が30人、30歳代と40歳代が各140人、50歳代が138人、60歳代が115人、70歳代が82人、80歳代が7人。主な診療科は内科が285人、外科が129人、精神科が58人、小児科が45人、整形外科が34人、産婦人科が16人、勤務施設は診療所が167人、大学病院が114人、国公立病院が122人、一般病院が240人だった。

約半数は漢方薬処方時に西洋医学的診断のみを考慮

 検討の結果、漢方薬は日常診療に広く取り入れられており、現在処方している医師は565人(86.7%)、過去に処方経験がある医師は62人(9.5%)で、処方経験なしはわずか25人(3.8%)だった。漢方薬を活用している疾患や症状は、筋痙攣、便秘、不定愁訴、更年期障害、食欲不振、栄養失調、倦怠感などが多かった。

 ただし、漢方薬を現在処方している医師の約半数が漢方薬処方時の根拠として証を考慮しておらず、西洋医学診断のみを根拠にしていた()。

図.漢方薬の処方割合および処方時の根拠

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(東海大学プレスリリースより)

 証に基づく漢方診療を行わないことによる弊害について、「十分な治療効果が期待できない」や「患者の治療満足度が上がらない」と懸念する声も多かった。

卒後教育や漢方のDXにも期待

 解決すべき漢方医学の課題については、「漢方薬の有効性に関するエビデンスの集積」や「漢方医学的診断の標準化」との回答が多かった。

 また、専門家でない医師が証を根拠とした漢方診療を実践するための対策としては、「漢方医学の卒後教育の充実」や「人工知能(AI)・アルゴリズムが候補となる漢方薬を提示するシステムなど、漢方のデジタルトランスフォーメーション(DX)」との回答が多く聞かれた。

 今回の調査結果から、畝田氏らは「漢方薬の高い普及率を再確認した一方で、証を根拠とする漢方薬の活用には課題があり、今後の研究・施策が必要である」と述べている。

(編集部・畑﨑 真)