近年、日本はオーラルフレイルの予防に力を入れており、75歳以上の高齢者(後期高齢者)を対象に、長寿医療制度の下で年1回の歯科口腔健康診査を推奨している。しかし、口腔の健康状態と介護認定および死亡との関連についてのエビデンスは少ない。島根大学地域包括ケア教育研究センター講師の安部孝文氏らは、島根県の後期高齢者の歯科口腔健診データを用い、介護認定および死亡との関連を検討した。その結果、13項目の口腔指標の悪化がこれらの発生と関連しており、特に客観的な咀嚼能力の影響が大きいことが示されたとLancet Healthy Longev(2024年10月16日オンライン版)に発表した(関連記事「たった5項目でオーラルフレイルをチェック」)。
後期高齢者2万例超の口腔健診データを検討
解析対象は、島根県在住で2016年4月~22年3月に歯科口腔健診を受けた75歳以上の2万4,619例。13項目の口腔指標(残存歯数、主観的咀嚼能力、客観的咀嚼能力、歯周組織の状態、機能的嚥下障害、舌の可動性、発音、口腔衛生、虫歯数、上顎および下顎の義歯不適合、口腔粘膜疾患、口腔乾燥)を評価し、多変量Coxハザードモデルを用いて口腔衛生の各指標と早期介護認定(要介護度2以上と定義)および死亡との関連を検討した。
多変量解析は、モデル1(性、年齢、BMIを調整)、モデル2(性、年齢、BMI、病歴を調整)、モデル3(全ての共変量から得られた傾向スコアを組み込み)の3パターンで行った。
なお早期介護認定は2万1,881例(男性41.93%、平均年齢78.31歳、平均追跡期間41.43カ月)、死亡は2万2,747例(同42.74%、78.34歳、42.63カ月)を解析対象とした。
早期介護認定は11項目、死亡は全13項目の口腔指標と有意な関連
口腔指標の悪化と早期介護認定の関連は、モデル1では13項目、モデル2では口腔乾燥症を除く12項目、モデル3は口腔乾燥症と口腔粘膜疾患を除く11項目との有意な関連が示された。この結果は、ベースラインから1年以内に介護認定を受けた参加者を除外した2万357例での感度分析でも同様だった。
死亡との関連は、3つのモデルともに全13項目の口腔指標との有意な関連が示された。感度分析においても、発音と口腔乾燥を除く11項目で主解析と同様の結果が得られた。
客観的な咀嚼能力はグミの咀嚼で評価可能
続いて安部氏らは、口腔健康状態における人口寄与割合(PAF)の関連を検討した。その結果、早期介護認定への影響が大きい上位3指標は、客観的咀嚼能力(第1四分位群:PAF 23.10%、95%CI 20.42~25.69%、第2四分位群:同10.62%、8.18~12.99%)、歯周組織の状態(中等度状態:同9.74%、6.03~13.31%)、残存歯数(1~9本:同8.68%、5.87~11.82%)だった。
また死亡への影響が大きい上位3指標は、客観的咀嚼能力(第1四分位群:PAF 16.47%、95%CI 13.44~19.40%、第2四分位群:同8.90%、5.80~11.82%)、残存歯数(1~9本:同7.23%、4.25~10.12%)、主観的咀嚼能力(咀嚼不能:同6.77%、3.01~10.39%)だった。
以上から、客観的な咀嚼能力の悪化が早期介護認定と死亡に最も強く影響することが示唆された。なお、客観的な咀嚼能力はグミを15秒間咀嚼した際の分割数で評価しており、日常生活内でも簡便に測定できる。
同氏らは「今回の検討により、高齢者の口腔健康状態の悪化は早期介護認定と死亡の重要な危険因子であることが示唆された。定期的に歯科口腔健診を受け、口腔の健康状態悪化を早期発見し対策と治療を講じることの重要性があらためて示された。治療を通じて、患者の客観的な咀嚼能力を確認することも大切だ」と結論している。
(編集部・渡邊由貴)