国立大学病院は現在、4万6,363人の常勤医師を全国に派遣しているが、今年(2024年)4月に本格施行された医師の働き方改革に伴い、地域への医師派遣の縮小が危惧されていた。しかし国立大学病院長会議会長の大鳥精司氏(千葉大学病院病院長)は、8月時点における医師派遣時間数が対前年度比100.3%と同程度の時間数を堅守していると12月13日に東京都で開いた第4回記者会見で報告した。ただし、「いきなり美容整形外科に行く直美など大学病院に医師が集まらないような状況では派遣できず、地域医療崩壊が始まるといっても過言でない」と同氏は指摘した。
42病院全体で254億円の赤字に拡大
国立大学病院の今年度収支について、32病院で速報値(10月4日時点)を上回る281億円の赤字見込みとなった(関連記事「赤字が260億円に拡大、国立大学病院」)。速報値の発表時点で赤字が見込まれていなかった病院を含む42病院全体では、-254億円となる見込みだ。
なお、昨年度の収支は42の国立大学病院全体で-60億円だったことから、今年度は極めて厳しい状況にある。
マイナス収支の要因は依然として、①医療の高度化に伴う高額医薬品および材料使用量などの医療費の増加、②エネルギー価格高騰の影響から光熱水費の高止まり、③働き方改革および人事院勧告の影響による人件費の増加、④物価高騰などによる業務委託費の増加や老朽化が進む施設への投資―がある。
増加の内訳は、対前年度比で①医療費が+3%(178億円増)、②光熱水費が+7%(23億円増)、③人件費が+6%(310億円増)、④業務委託費・施設費が+4%(84億円増)とされる。大鳥氏は「われわれがいくら稼働率を上げて収入を増やしても、このような大きな支出が覆いかぶさってくる。今の診療報酬の構造では立ち行かない」との認識を示した。
また①~④のうち最も頭を悩ませるのが③の人件費で、医師の働き方改革に加えてここに国立大学病院ならではの人事院勧告も影響しているという。診療報酬改定による収入増(ベースアップ評価料、入院基本料などの賃上げ相当)117億円に対し、人件費で310億円の支出増が見込まれており、極めて厳しい経営状況となっている。
進まぬ地域医療介護総合確保基金の確保
厚生労働省は地域医療への支援策として地域医療介護総合確保基金を確保している。医療機関からの申請は、市町村を介して各都道府県が国に基金事業計画を提出。認められた場合、基金の3分の2を厚労省が、残りを各地方自治体が負担する。しかし財政難などを理由に全ての都道府県が国に基金事業計画を提出している訳でなく、都道府県と協議中の医療機関は少なくない。そのため記者会見に参加した国立大学病院長から、全額国の負担にしないと実効性に乏しいなどの意見が出た。
大鳥氏は「各地方自治体には地域医療に危機感を持ってもらい、国に基金事業計画を提出してもらいたい」と訴えた。
(編集部・田上玲子)