慢性腎臓病(CKD)は放置すると末期腎不全に至る他、心血管疾患(CVD)や死亡のリスクとなることから、いわゆる「隠れ腎臓病」の早期のうちに診断および治療することが重要とされる。早期診断には尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)の算出に必要な尿アルブミン定量測定が重要な役割を果たすが、日本では非糖尿病患者には保険が適用されない。日本腎臓病協会は1月9日に、バイエル薬品と共同で実施したUACRの医療経済的有効性を糖尿病の有無別に評価する産学連携共同研究の結果について、「腎障害の指標である UACRは糖尿病合併の有無にかかわらず、他の指標と比べ費用対効果が高かった」と報告(J Diabetes Investig 2025; 16: 108-119Clin Exp Nephrol 2024年12月16日オンライン版)。UACR算出に必要な尿アルブミン定量測定の保険適用拡大に期待感を示した

尿アルブミン定量測定の保険適用、日本では3カ月に1回

 日本腎臓学会『エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023』では、CKDの診断は腎障害の指標、糸球体濾過量(GFR)低下のいずれか、または両方が3カ月を超えて持続する状態と定義されている。腎障害の指標としては、蛋白尿〔尿蛋白/クレアチニン比(UPCR)が0.15g/gCr以上〕またはアルブミン尿(UACRが30mg/gCr以上)の存在が重視される。また、CKDの重症度判定にも蛋白尿、アルブミン尿の評価は必須で、尿アルブミン定量測定による評価が標準とされている。

 尿アルブミン定量測定は、国際的にはCKD全般で実施されており、CKDの定義や重症度分類もこれに基づき行われている。一方、日本では、微量アルブミン尿が疑われる糖尿病または糖尿病性早期腎症患者(糖尿病性腎症第1期または第2期)に、UACRの算出に必要な尿アルブミン定量測定を実施する場合、保険適用は3カ月に1回に限られる。そのため、尿蛋白排泄量で代用せざるをえない状況である。

 こうした背景から、厚生労働省の研究班は尿中アルブミン測定の診療報酬化に取り組むこととなり、その一環として今回、日本腎臓病協会とバイエル薬品は、CKD診断にUACRがより適切に使用できるよう、2型糖尿病の有無にかかわらずUACRの医療経済的有効性を評価することを目的に本研究を実施した。医療経済モデルを用いて、2型糖尿病の有無別にUACRの費用対効果をUPCR、尿検査非実施の場合と比較。UACRの費用対効果の指標には、増分費用効果比(ICER)を用いた。費用の増分を分子、治療効果の向上量を分母とし、ICERの値が小さいほど費用対効果が高い。

糖尿病患者のICERは、1QALY当たり196万円前後

 解析の結果、2型糖尿病患者におけるUACR実施のICERは、尿検査非実施との比較では1質調整生存年(QALY)当たり246万453円、UPCR実施との比較では1QALY当たり265万2,693円。2型糖尿病患者では、UACRを定期的にチェックし、CKDの早期診断および早期治療を行うことは、尿検査非実施またはUPCR実施と比べ費用対効果が高かった。

 糖尿病患者におけるUACR実施のICERは、尿検査非実施との比較では1QALY当たり195万3,958円、UPCR実施との比較では1QALY当たり196万6,433円。UACRの定期的なチェックによりCKDの早期診断および早期治療を行うことは、非糖尿病患者においても尿検査非実施またはUPCR実施と比べ費用対効果が高かった。

 以上から、研究グループは「日本の公的医療保険制度では、保険償還価格を設定する際のICER標準基準額が1QALY当たり500万円以下に設定されている。したがって、UACRを定期的にチェックしてCKDの早期診断および早期治療を行うことは、尿検査をしない場合またはUPCRによるチェックと比較して費用対効果が高い」と結論付けた。

 日本腎臓病協会理事長の柏原直樹氏は「生活習慣の変化や高齢化を背景に、腎臓病が増えている。中でもCKDは生活習慣病であることから予防が可能であり、早期診断および早期治療により予後が大きく変わる。日本では、糖尿病患者において尿アルブミン定量測定が保険適用されているが、現時点で保険適用されていない非糖尿病患者への費用対効果も良好であることが明らかになった。腎臓病克服のために、日本も諸外国同様、糖尿病合併の有無にかかわらず、尿アルブミン定量測定が保険適用されることが重要である」と強調した。

(編集部・比企野綾子)