運動機能が低下する「がんロコモ」
骨転移の痛みなら、早めに受診を
がんの治療が進歩し、長期生存できるがん患者が増えた一方で、骨転移などによる運動機能の低下が問題となっている。日本整形外科学会では、がんに関連した運動器の障害による移動機能の低下を「がんロコモ」と名付け、問題の解決を目指している。その対策の重要性について、東京大学医学部付属病院(東京都文京区)リハビリテーション部の篠田裕介講師に聞いた。
▽骨転移やがん治療が原因に
「ロコモティブシンドローム(ロコモ、運動器症候群)」は、骨、関節、筋肉、神経などの障害が原因で、立つ、歩くといった運動機能が低下し、日常生活に支障を来す状態をいう。近年、がんの骨転移や抗がん剤などの治療を原因とする「がんロコモ」という言葉も登場した。
がん患者の5年生存率(上)とがんロコモの原因(下)
肺がん、乳がん、前立腺がんなどでは、がんが進行すると、背骨、骨盤、大腿(だいたい)骨などに骨転移を起こしやすくなる。篠田講師は「背骨に転移が起こり脊髄(神経)を圧迫すると、手足が動かなくなったり、排尿や排便ができなくなることがあります。また、骨転移により、骨折して歩けなくなることもあります」と説明する。
抗がん剤の副作用による手足のしびれ、手術や放射線治療による運動機能の障害、長期間の治療と安静による筋力低下なども、がんロコモの原因となる。社会生活が制限され、がん治療が継続できなくなる、といった問題もある。
▽整形外科医などに相談を
篠田講師によると、治療の進歩により長生きするがん患者が増えたことに伴って、がんの痛みの軽減や運動機能の改善に対するニーズは高まっているという。
治療法は、原発がんの治療を最優先にしつつ、骨転移に対する外科的治療、放射線治療、薬物治療などが検討される。
篠田講師は「がん患者が最後まで自力で歩き、日常生活を送ることが、がんロコモ対策の目標です。徐々に悪化する痛みがある、足に力が入りにくい、触っても感覚が鈍いなど、いつもと違うと感じることがあったら、骨転移が起きている可能性があります」と指摘。近年は、原発がんを治療する医師や骨転移を治療する整形外科医、リハビリテーション科の医師など多くの職種が連携して、がんの治療や運動器のケアに携わる動きがあるとして、「痛みを感じたら、我慢しないで早めに主治医や整形外科医を受診してください。早期に発見し、対応すれば、運動機能が悪化するリスクが低下します」とアドバイスする。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2019/08/01 06:00)