医学部・学会情報

前立腺がん発生や治療耐性を「エゴマ成分」が抑制することを発見
名古屋市立大学大学院医学研究科 -治療耐性の原因を抑える新しい小分子RNAの発見に成功-

             【研究成果の概要】
研究の背景

近年、高齢化や食生活の欧米化に伴って前立腺がんは増加しており、その予防法の開発は重要な課題です。前立腺がんの発生には酸化ストレスが関与するため、強い抗酸化能をもつ物質を食品から日常的に摂取すれば、前立腺がんの予防に役立つと考えられます。その考えのもと、内木准教授・高橋教授らの研究グループは、以前にラットで高い抗酸化能と肝がんの抑制効果を発見した、エゴマ含有成分「ルテオリン」の前立腺がんに対する予防効果を調べることにしました。その過程で、「ルテオリン」がCRPCにおいて、治療耐性に関わるAR-V7を強力に抑制することを発見しました。そのことから、「ルテオリン」のCRPCに対する効果についても詳細に検討しました。

研究手法と成果

前立腺がんの予防効果
ラット前立腺がんモデルに「ルテオリン」を混ぜた餌を8週間与え、混ぜていないグループと比較しました。その結果、「ルテオリン」を摂取させたグループでは、摂取させないグループと比較して、前立腺がんの発生が抑制されました。酸化ストレスの原因となる、活性酸素種の量を調べてみると、前立腺内では「ルテオリン」の摂取により下がりました。このことから、「ルテオリン」が酸化ストレスを抑えることにより、前立腺がんを予防することが明らかとなりました。

②CRPCのAR-V7とがん細胞増殖の抑制効果
次に、AR-V7発現をもつCRPC細胞に「ルテオリン」を投与すると、がん細胞の増殖が抑制されることがわかりました。投与した細胞としていない細胞でタンパク質発現を比較した結果、AR-V7発現が「ルテオリン」により著しく減少しており、これによりがん細胞の増殖が抑制されていることが明らかになりました。(図1)

③小分子RNA・miR-8080によるAR-V7抑制効果
近年、タンパク質をコードしないRNAの一種である小分子RNAが、標的の遺伝子と相互作用して発現をコントロールすること、が明らかになりました。今回、「ルテオリン」の投与により発現が誘導される小分子RNAを抽出し、AR-V7と作用する可能性のある配列の小分子RNAを探索したところ、miR-8080が見つかりました。miR-8080がAR-V7発現を直接コントロールするかを詳しく調べるために、CRPC細胞にmiR-8080を発現させたところ、細胞の増殖スピードが遅くなりました。反対にCRPC細胞のmiR-8080発現を抑えると、がん細胞の増殖が速くなりました。これらにより、miR-8080は直接AR-V7に作用してタンパク質翻訳を抑制することが証明されました。これまでにmiR-8080に関わる報告はなく、本研究は世界で始めてmiR-8080が疾患メカニズムに関わることを示した研究です。そこでmiR-8080誘導により変化する分子を調べたところ、CRPC細胞の増殖に対して重要な転写因子であるNKX3.1や増殖シグナル経路であるIGF-1をmiR-8080が抑制していることが明らかになりました。
さらに、CRPC治療薬エンザルタミドの治療効果に対する「ルテオリン」の効果を、マウスに投与して確認しました。その結果、「ルテオリン」でmiR-8080を誘導していない動物では、エンザルタミドの抑制効果はほとんどない(図2、青)のに対して、誘導している動物ではCRPC腫瘍組織内のAR-V7タンパク質発現が抑制し、著明な腫瘍抑制効果が見られました(図2、緑)


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