医学生のフィールド

日本の医療機関の感染対策は万全か
「コロナショック」で学ぶべきこと 堀賢順天堂大教授【医学生インタビュー】

 ◇日本にはまだ少ない感染制御の専門家

 ―日本の病院の院内感染対策は。  

 日本の病院でも感染制御の責任者(院内感染管理者)を置くことにはなっていますが、診療報酬で感染防止対策加算を取っているところ以外は、兼任のところが多いです。

 「日本には感染制御の専門家が少ない」と堀教授

 日本の医療は病気を治す治療に重きを置いています。感染対策はいわば予防です。医療費を少しでも削減するために、最近になってようやく予防に関しても診療報酬が加算されるようになったのですが、そこに至るまでは、感染制御については全くの無報酬でした。  

 最近は院内感染について、ニュースでよく取り上げられるようになり、各病院で担当者を配置し、全国の大学で講座が開設されるようになりました。院内感染対策の環境整備やオペレーションに力を入れている病院も増えていると思います。  

 ただ、(感染制御のスペシャリストで)教授になっている人は非常に少ないです。院内感染対策は病院の内部事情に関わるデリケートな問題なので、論文が書きづらいのです。コメディカル(医師、看護師以外の医療従事者)との交渉も多く、問題が起きていないときは疎まれます。医療職のわりに、患者さんからの直接の感謝を感じられないなど、さまざまな理由で日本には感染制御の専門家が少ないのが現実です。 

 ◇うまく進んできたコロナウイルス対策

 ―新型コロナウイルスで日本政府の対応に批判もありますが、国内の医療体制はどうだったのでしょうか。  

 今回の日本でのコロナウイルス対策は2009年の新型インフルエンザ対策の反省から10年に作り直し、13年に改訂(新型インフルエンザ等対策特別措置法が13年に施行)したものにのっとって行われていて、非常にうまく進んでいると思っています。日本では死者が少ないのは、まさにその努力が実ったといえます。  

 イタリアや韓国に比べて患者が少ないのはPCR検査の数が少ないからだとも言われていますが、軽症者でも重症者でもすべて検査して陽性患者を全員指定病院に収容させたら、本当に重症者を入れるスペースがなくなり、医療が崩壊して、亡くなってしまう人が増えます。中国・武漢では、医療のキャパシティーを超えて患者が殺到したことで、重症患者がいわゆる「超過死亡」でたくさん亡くなりました。それが今起きているのがイタリアの状況です。  

 日本の対策では、まず肺炎がある重症患者以上を優先的に収容しました。もともとは風邪なので、8割は自然によくなる。であれば、限られた医療資源を2割の人に対して使うことにして、その線引きを最初の水際対策をしながら探っていたのです。

 ◇米疾病対策センターのような常設機関を

  ―大型客船「ダイヤモンドプリンセス」への対応にも一部批判がありましたが。  
 日本の検疫法は明治時代にできたのですが、外国の商船から梅毒結核が持ち込まれたのを契機に新しい制度や法律ができました。ダイヤモンドプリンセスについては、あれだけの大型客船の検疫は、世界で初めて経験することなので、最初からベストの方法を取れたかというと難しかったと思います。  

 今回は現場にいろんな分野の人が入って合議しながら、その時にできる最善ではなかったかもしれませんが、最良の策を取ったのではないかと思います。いろいろな批判はありますが、のちに専門家による総括を行うことで、今回の教訓を必ず将来に生かせると思います。  

 感染対策は政治的に決めるのではなく、科学者によって冷静に判断されるべきだと考えます。日本でも感染対策のスペシャリストが増え、アメリカのCDC(疾病対策センター)のようにあらゆる感染症の危機管理に対して主導的な役割を担う専門機関が常設されるとよいと思っています。(了)  


 ◇堀賢(ほり・さとし)氏プロフィル

 1966年生まれ、岐阜県出身。順天堂大学医学部大学院医学研究科(病理系・細菌学)卒業。英国感染制御専門資格(ディプローマ・イン・インフェクションコントロール)修了。現在、順天堂大学大学院医学研究科感染制御科学教授、順天堂大学附属順天堂医院感染対策室室長。


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