治療・予防

HIV感染症に伴う認知機能障害―HAND
加齢とともに増え、25%で発症(東京医科大学病院臨床検査医学科 木内英主任教授)

 エイズウイルス(HIV)感染症は治療法の進歩により、もはや「死の病」ではなくなった。しかし、HIV感染者の高齢化が進み、新たな問題が浮上している。高齢になるほど、合併症として認知機能の障害を引き起こしやすいことが分かってきた。東京医科大学病院(東京都新宿区)臨床検査医学科の木内英主任教授に聞いた。

HIV関連神経認知障害(HAND)の特徴

 ▽50代以降に有病率が増加

 HIV感染症の合併症の一つに「HIV脳症」がある。中枢神経に障害が起こり、記憶力の低下や物忘れといった認知機能障害、四肢のまひなどの運動症状が起こる疾患だ。かつては症状が急速に進行し、短期間で死亡に至る例が多かったが、治療法の進歩により重症化する患者や死亡例は激減した。

 しかし、HIVの治療によってウイルス量が抑えられている患者でも、軽度の認知障害を来す例が意外に多いことが明らかになり、「HIV関連神経認知障害(HAND)」と呼ばれるようになった。木内主任教授らが行った国内研究(J―HAND研究)では、対象となったHIV感染者の約25%がHANDと診断された。また、治療開始から5年以上が経過した特に50代以降でHANDの発症者が増え、高齢になるほど多いことも分かった。

 具体的にどんな症状が表れるかはまだ十分に分かっていないが、木内主任教授は「目で見た情報を処理する力、複雑な作業を組み合わせる力が衰える傾向が見られました。この二つの能力が衰えると、車の運転に支障を来したり、薬が多くなると飲む順番が分からなくなったりすることが起こり得ます」と説明する。

 ▽早めに治療開始を

 HANDの発症原因として、二つのメカニズムが考えられている。一つは、HIV感染自体によって直接的に引き起こされる神経細胞の障害だ。もう一つは、HIV感染に対する免疫反応として神経細胞の興奮や炎症を起こす物質が放出され、間接的に神経に炎症を起こす二次的障害である。

 前者は治療で抑えられるが、後者について、木内主任教授は「HIV感染症を抑えられても、神経細胞の疲弊が長期間続き、HANDを発症してしまうと考えられています。その結果、前述したような一部の認知能力に関しては、治療していても徐々に悪化する可能性があります」と指摘する。

 だが、なるべく早期にHIVの治療を開始することで、HANDの進行を防ぐ効果が期待できる。木内主任教授は「HIVの治療開始が遅かった人ほど、HANDが悪化しやすい傾向が見られます。最近では、1日1回1錠の服用で済む抗ウイルス薬も登場していますので、治療を速やかに開始することが大切です」と強調する。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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