「死の病」ではなくなったエイズ
鍵は早期発見、早期治療
エイズのイメージを変えようと訴えるキャンペーン=エイズ予防財団提供
12月1日は「世界エイズデー」。かつて「不治の病」といわれたエイズは治療の進歩によって、もはや死の病ではなくなった。しかし、患者がいなくなったわけではない。熊本大学ヒトレトロウイルス学共同研究センターの松下修三教授は「とにかく早期発見と治療が大事だ」と力説する。
早期診断・早期治療を訴える松下修三教授
厚生労働省エイズ動向委員会によると、2018年の新規HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染者・エイズ患者の報告数は1317件で、2年続けて減少している。感染経路の70%以上を性的接触が占め、その多くが男性同性間の性的接触によるものだとされる。
◇インフルと似た症状
HIVは免疫機能の中枢であるヘルパーTリンパ球(CD4細胞)という白血球を攻撃し、免疫力を低下させる。免疫力の低下により、本来は自分の力で抑えられる病気を発症するようになる。これがエイズだ。
HIVに感染して2~4週間後に発熱や咽頭炎、リンパ節の腫れ、頭痛などの症状が出ることがあるが、ほとんどの場合は無症状だ。さらに症状が出ても「インフルエンザの症状と似ており、HIV感染を疑う症状がない」と、松下教授は診断の難しさを指摘した。
恐ろしいのは、エイズ脳症や口腔・食道カンジダ症、ニューモシスチス肺炎、サイトメガロウイルス網膜炎などいった疾患だ。
以前は多くの薬剤を服用する必要があった
◇進歩してきた治療
ただ、きちんとした治療を受けていれば、パートナーに感染することはない。社会が「自己責任」を追及していけばいくほど、感染者は増える。自己責任を声高に唱えるだけではなく、性の多様性を受け入れられる社会の方がよいのではないか―。松下教授はこう主張する。
「日本では血液感染はほぼゼロだ。母子感染も母親を治療すれば、子どもに移ることはなく、ゼロにできる」
進歩してきた治療は、英語の略称で「ART」と呼ばれる抗ウイルス療法だ。エイズが大騒ぎになった当初、抗エイズ薬は「AZT(アジドチミジン)しかなく、高価だった。松下教授は「クラス(作用)の異なるウイルス薬を組み合わせ、多剤併用をする」と説明し、「昔と違い、1日1回服用すればよいので患者の負担は少ない。副作用も少なく、HIVが耐性を獲得しにくい」と話した。
その結果、HIV感染者の平均寿命は一般の人の平均寿命に近付いた。
1日1回の服用でよい現在の治療薬
◇予防は社会にも利益
HIV検査は、ほとんどの保健所において無料で受けることができる。匿名でプライバシーも保てる。検査は少量の採血で行い、保健所によっては他の性病検査を同時に受けることも可能だ。希望すれば、医療機関での検査や自宅から郵送する検査といった方法もあるが、これらは有料だ。
「検査なくして予防なし。早期診断、早期治療は個人にとっても、社会にとっても大きな利益をもたらす。新規感染者を減らすためには、検査のオプションを増やして検査への敷居を下げる必要がある」。松下教授はこう力を込めた。(鈴木豊)
(2019/11/14 07:00)