治療・予防

検査で異常ないのに胃に不快感
不安やストレスによる機能性ディスペプシア(兵庫医科大学病院 三輪洋人副院長)

 不安などのストレスがきっかけとなって胃に不快な症状が起こり、それが繰り返し続くようであれば機能性ディスペプシアという病気の可能性がある。兵庫医科大学病院(兵庫県西宮市)の三輪洋人副院長に聞いた。

不快症状はあるのに、検査で異常は見つからない

不快症状はあるのに、検査で異常は見つからない

 ▽ストレスが引き金に

 機能性ディスペプシアの症状には、食事をすると胃がもたれる、少量でもすぐ満腹になる、食事と関係なく胃が痛む、おなかが張る―などがある。「内視鏡や超音波などの検査をしても異常が見つからず、経過観察にとどまるケースが少なくありません」と三輪副院長は指摘する。

 胃の不快な症状は1週間に2、3回起こり、1カ月以上続く。そのため、食事が苦痛になり痩せる、仕事や家事、勉強に集中できないなど生活の質(QOL)が著しく低下する。

 原因は、ストレスをきっかけに起こる胃の機能低下や胃粘膜の知覚過敏と考えられている。胃の働きを調整している自律神経はストレスの影響を受けやすく、胃の運動が低下し胃もたれなどの症状が表れる。また、自律神経は胃酸の分泌を調整しており、ストレスで自律神経の働きが乱れると胃粘膜が胃酸を感じやすくなり胃痛が起こる。

 ▽十二指腸の関与も

 三輪副院長によると、機能性ディスペプシアの発症には十二指腸も関与するという。健康な人の十二指腸に水と胃酸に近い強い酸を注入し症状を調べたところ、水に比べて酸を注入したときに胃もたれや腹部膨満感などが強く表れた。「機能性ディスペプシアでは、十二指腸にわずかな炎症が生じることで酸などの刺激を敏感に感じ、胃の不快な症状が起こると考えられます」

 さらに、ストレスで十二指腸に炎症が生じることがラットの実験で報告されている。子どものラットを母とは別のケージに移し、2時間後に母のケージに戻すというストレスを与える実験を2週間繰り返した。すると、子どもの十二指腸に炎症が生じ、大人になると頻繁に下痢を起こすようになったという。

 治療では、病気の説明をするだけで深刻な病気が潜んでいるのではないかという不安が解消し、症状が改善する患者が多い。不安を和らげる抗不安薬や睡眠薬が処方されることもある。また、自律神経の乱れに対し、規則正しい生活を指導する。例えば、1日3回の食事を決まった時間に取る、十分な睡眠を心掛けるなどだ。

 さらに、三輪副院長は自律神経を鍛えるマインドフルネスを勧める。マインドフルネスとは、今自身に起こっている出来事にだけ意識を向けること。「例えば、座禅や瞑想(めいそう)で姿勢や呼吸を意識します。自律神経の乱れを整えるには深呼吸の効果が大きく、気持ちが落ち着きます。普段から深呼吸を意識してください」と三輪副院長は呼び掛けている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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