柔道などの競技者で集団感染も
トリコフィトン・トンスランス感染症(順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科 広瀬伸良教授)
柔道、レスリングなど相手の肌に強く接触する競技を行う若者の間で、カビ菌(真菌)による皮膚感染症の発症が問題となっている。原因菌は真菌の一種で、水虫を起こす菌と同じ白癬(はくせん)菌属に分類されるトリコフィトン・トンスランスだ。感染すると、顔、首、胸部などの皮膚や頭皮に赤い発疹ができる。頭皮にできて重症化すると脱毛が生じることもある。クラブ活動での集団感染や家族内感染が起こる可能性もあるため、予防策を徹底し、症状があれば速やかに治療を受ける必要がある。
トリコフィトン・トンスランス感染症で見られる症状
▽学生柔道選手の5~7%が感染
トリコフィトン・トンスランス感染症は海外から持ち込まれた白癬菌だ。全日本柔道連盟医科学委員会特別委員を務める順天堂大学大学院スポーツ健康科学研究科の広瀬伸良教授によると、トリコフィトン・トンスランスは中南米の土着の菌だったが、欧米に広がった後、柔道やレスリングといった格闘競技選手の間で流行し、2001年ごろから日本でも感染例が見られるようになった。
競技人口の多い柔道選手で感染者が多いようで、継続的な調査結果から、「ピーク時には柔道をする高校生、大学生の10%以上で見られ、その後増減を繰り返しながら減少傾向を示し、現在は5~7%と推定されます」と広瀬教授は説明する。
▽練習後はシャワーで洗い流す
症状は、顔、首、胸部などに直径1~2センチのかさかさしたピンク色の発疹ができる体部白癬と、頭皮に発疹やフケ、かさぶたができる頭部白癬の2種類に大別される。頭部白癬の重症例では、頭皮が盛り上がり、うみが出て、脱毛することもある。
皮膚の発疹は、中心部から治っていくため、途中で環状の紅斑になることが多い。一方、頭部白癬では毛穴が黒く広がって見えるブラックドットという症状が表れることもある。「環状の紅斑もブラックドットも不明瞭なことが多く、練習前の入念なボディーチェックが必要になります」と広瀬教授。
トンスランス菌は体内への侵入速度が速いため、予防法として、練習が終わったらできるだけ早くシャワーなどで頭や体を洗い流すことが勧められるという。シャワー施設がない場合は、水道で頭を洗い、体はぬれたタオルで拭くとよい。広瀬教授は「練習着は毎回洗濯しましょう。練習前後の練習場の掃除も大切です。菌が潜んでいる抜け毛やあかを電気掃除機で吸い取ると感染予防に効果的です」と話す。
治療には抗真菌薬の外用薬や内服薬を用いる。ステロイドの外用薬を使うと悪化することがあるため、注意が必要だ。
広瀬教授は「症状が見られたら練習を休み、皮膚科医の診察を受けてください。適切に治療すれば治ります」とアドバイスする。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2020/12/19 05:00)
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