一流のレジリエンス~回復力~Dr.純子のメディカルサロン

入退院を繰り返して8年 それでも自分らしく生きる
悪性リンパ腫の治療生活を送る瀬古昴さん


 ◆他人をうらやむ心

 海原 元気で遊んだり、仕事してる人に対し、怒りとか感じませんか。私なら、自分だけ不幸な目に遭っていると思って、毎日「悔しい!」と文句を言いそうですが。

 昴 うーん、たぶん感じていますね。例えば、友人が子どもの写真をフェイスブックにあげているのを見ても、100%純粋に「いいね!」と思えなかったり。自分でも、すごく小人物だな、と思いますが。

 14年、骨髄移植の時に、強い化学療法で、恐らく精子がつくれなくなると医師に言われ、精子保存をしました。

 今も、自分の精子が復活しているのかは分からないのですが、その頃は「健康で、子どもをつくって、家族をつくる未来」しか、イメージしていなかったので、当時の僕には、かなりショックな出来事でした。

昴さんのインスタグラムの画面より(本人提供)【時事通信社】

 すごく無い物ねだりなんですが、「友人たちよ、家族の写真をあげて喜んでるけど、家族をつくれない人の気持ち考えたことある?」って、言いたくなってしまったり(笑)。

 なので、情報を遮断して心を楽にするために、フェイスブックのアカウントを消したりもしましたね。あれはスッキリしました。ただ、今はだいぶ、心の整理がついているので、ストレスは少ないです。


 海原 情報を遮断するというのは、余計なことを心からシャットアウトするということかもしれませんね。そして、自分の心の中に目を向けることになるのでしょうね。そうしてしまうと、人をうらやましいと思ったり、自分を他の人と比較することはないのでしょうか。

  あります。結婚、恋愛。後は、健康な肺を持って、自分の足で歩けている人。キラキラ働いてる人。やっぱりうらやましいです。

 自分も恵まれている部分がたくさんあるし、みんな、それぞれに違った苦労をされているんだ、と頭では分かっているのですが、うらやましさは感じてしまいます。

 海原 そうですよね。頭では分かっても、受け入れるのは、難しいことだと思います。うらやましい時、どうやって心を立て直すのですか。昴さんは、生活の中で、できることを見つけて、楽しんでいるように見えます。

  どうなんでしょう。「うらやましい」と思うことはあるのですが、あまりその感情が長続きしないんです。すぐ忘れます。

 自己分析してみても、よく分からないのです。なぜなのか。逆に、純子さんにお聞きしたいです。「うらやましさ」が続く人と、続かない人に、傾向の違いというのは、あるのでしょうか。

 海原 性格というより、なぜ人がうらやましくなるのかという状況の分析と対応が差になるのだと思います。自分が幸せなときや、自分が何かに夢中になり、集中しているときは、他人のことが気にならないですよね。

 自分が幸せではないとき、人がうらやましくなるわけです。私も、人がうらやましくなるときがあるんですけど、そういうときは、「自分を幸せな気持ちにしよう」と、自分をいたわることに目を向け、それから、何かに没頭して集中するんです。

2020年1月1日、昴さんが病室から見た風景(本人提供)【時事通信社】

 私の場合、何かを研究したり、原稿を書いたりしていると、集中して、うらやましい気持ちを忘れていることがほとんどです。うらやましいという気持ちに集中していると、ますますつらくなるから、そこから離れて、集中できることに視点を変えるのが役立ちます。昴さんは、書くことなどに集中しているのかもしれませんね。


 昴 自分を楽しくさせることは、たくさんあります。文章を書くこと、音楽を聴くこと、家族と話すこと、おいしいコーヒーをいれて家族で飲むこと、マンガを読むこと、筋トレして体重を増やすこと、祖母をからかうこと(笑)。

 骨髄移植の合併症で、肺や目の障害があるので、健康な時と全く同じように楽しむことはできませんが、何とか工夫して…。やりたいことの数に対して、体力が追いつかないな、悔しいな、という感じです。

 ◆書くことはレジリエンスの力

 海原 昴さんは、ブログなどで原稿をたくさん書いてますね。書くことは、自分の考えや自分の感情を客観的に見ることになるのですが、ご自身では、書くことに、どんな意味があると思いますか。

 昴 これまで書いてきた原稿をまとめ、発売日は未定ですが、文藝春秋から本を出させていただくことになりました。ブログや本で挑戦したかったのは、まさに「自分の経験を客観視して、笑いに変えることで乗り越える」ということでした。

 世界の喜劇王、チャーリー・チャップリンの言葉で、「人生は近くで見ると悲劇だが、遠くから見れば喜劇だ」というのがあるのですが、僕の経験上、確かに、その時は辛くても、あとから振り返ったり、俯瞰(ふかん)的に見てみると、人の動きや心の動きは、まるでコントのようだったりするんです。

 なので、そこの登場人物、主に自分ですが、それにツッコミを入れていって、笑いに変えるという作業ですね。トラウマのような出来事でも、笑い話にできたとしたら、自分の中で消化できたと言えるんじゃないかと思ったんです。

 結果的に、全てのつらい経験を消化できたわけではありませんが、書くことを通して、4割くらいは、辛さを軽減できたかもしれないな、と思っています。

 海原 ご自分の体験から気が付いたことや、家族との関わりについて書かれたんですね。タイトルは「がんマラソンのトップランナー 伴走 ぶっとび瀬古ファミリー」と聞いています。ご家族の話もたくさん登場しそうですね。楽しみに待っています。最後に、昴さんが大事にしていることは、どんなことですか。

 昴 精神的に成長することです。今年の自分より、来年の自分は、人間的に大きくなっていてほしい。サボってしまうことも、たくさんあるのですが、らせんを描くように成長していきたいです。

 取材後記 日常生活に制限がある暮らしの中で、喜びを見つけていくのは大変なことだと思います。8年の間、体調が許すわずかな時間の中で、ひとの手助けをしたり、原稿を書いたりしている様子を聞くたびに、心からすごいと思わずにいられません。

(文 海原純子)

 瀬古 昴(せこ・すばる) 1986年、東京都生まれ。大学ではあまり勉強せずにエコ活動を行い、卒業後1年間会社で働いた後、「ピースボート 地球一周の船旅」に参加。帰国1年後の2012年に悪性リンパ腫の一種である結節硬化型古典的ホジキンリンパ腫を発症。数々の化学療法、弟をドナーにした骨髄移植、免疫療法薬オプジーボなどの治療を経験するも、一度も病気は消えず、現在も副作用や合併症と付き合いながら治療を続けている。父は元マラソン選手の瀬古利彦。大好きなのは、コーヒー、文章を書くこと、お笑い、音楽、Mr.Children。
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