医学部・学会情報

人工知能搭載ロボットによる内視鏡腎結石治療で従来法以上の治療成績を報告-名古屋市立大学 (ロボット支援透視ガイド vs 超音波ガイド腎穿刺の経皮的腎砕石術の無作為比較試験)

 研究成果の概要

 尿路結石は10人に1人が罹患(りかん)し、激しい疼痛による発症や腎不全へも至る病気です。特に腎臓の中で大きく形成された結石に対しては、経皮的腎砕石術という背中から内視鏡を通して結石を除去する必要があります。この手術は治療効果が高い反面、腎臓に内視鏡を通すための瘻孔の作成(腎穿刺)が難しく、医師の手技の修練に時間がかかるため限られた医師・病院に手術が偏る傾向にありました。

 名古屋市立大学大学院医学研究科の濵本周造・田口和己講師(腎・泌尿器科学分野)らは、シンガポールのベンチャー企業との共同研究により、人工知能を搭載したロボット機器を用いた世界初の臨床試験を行いました。この結果から、ロボット支援透視ガイドによって腎穿刺の正確性が向上し、医師の修練時間の短縮と、治療成績の改善につながる可能性を見いだしました。

 【背景】

 大きな腎結石に対する治療は経皮的腎砕石術といい、体表から腎臓内部に瘻孔を作り、そこから内視鏡を挿入して結石を砕いて取り出してくる手術です。別の治療方法である体外衝撃波砕石術や経尿道的腎砕石術と比較し、高い確率で一度に結石を除去できる反面、腎臓に瘻孔を作る腎穿刺は難しく、出血や他の臓器損傷が起こりうるため、十分な修練を積んだ医師によって施行されているが現状です。このため、医師の修練に要する時間、施行できる病院が限られているなどの問題があります。

 名古屋市立大学大学院医学研究科 腎・泌尿器科学分野では、シンガポールの医療機器ベンチャーであるNDR Medical Technologyとの共同研究において、人工知能を搭載したロボット機器により、リアルタイムのX線透視画像をリアルタイムで観察しながら腎穿刺を自動化する試みを行ってきました。(図1)今回、このロボット支援透視ガイドでの腎穿刺の有効性を、特定臨床研究として初めて実臨床において無作為割付試験にて報告しました。

図1ロボット支援透視ガイド

図1ロボット支援透視ガイド

 【研究の成果】

 2020年1月から2021年5月にかけて、腎結石にて経皮的腎砕石術を要した71人の患者さんを対象としました。無作為割付により、36人がロボット支援透視ガイド群、35人が従来法である超音波ガイド群に分け、治療成績を比較しました。

 主要評価項目である単回穿刺成功率は両群で同等であり、超音波ガイド群では14.3%で腎穿刺を途中で上級医に交代する必要がありましたが、ロボット支援透視ガイド群では交代は必要ありませんでした。腎穿刺の平均回数(ロボット支援透視ガイド群:超音波ガイド群=1.83回:2.51回)、腎穿刺にかかった平均時間(ロボット支援透視ガイド群:超音波ガイド群=5.5分:8.0分)と、ロボット支援透視ガイド群で有意に少ない結果でした。その他、結石除去率や合併症の発生率は両群で差はありませんでした。(図2)

 また多変量解析により手術の治療成績に関連する複数の因子を配慮して分析すると、ロボット支援透視ガイドによる腎穿刺の回数を1回弱減らすことができると予測されました。

図2研究成果の概要

図2研究成果の概要

 【研究のポイント】

 ・尿路結石は10人に1人が生涯で発症し、腎不全にも至る難治性の疾患です。
 ・大きな腎結石に対する経皮的腎砕石術は、腎穿刺が難しく、熟練された医師に頼らざるを得ません。
 ・名古屋市立大学大学院医学研究科 腎・泌尿器科学分野では、シンガポールの医療機器ベンチャーと共同し、腎穿刺を自動化する人工知能を搭載したロボット機器の研究をすすめてきました。
 ・今回、世界で初めての臨床試験を行い、ロボット支援透視ガイド腎穿刺による経皮的腎砕石術の有効性を証明しました。
 ・この方法により、治療成績の向上と、医師の修練が簡略化による経皮的腎砕石術の普及が見込まれます。

 【研究の意義と今後の展開や社会的意義など】

 今回検証を行った経皮的腎砕石術における腎穿刺は、術者の習熟度により治療成績が左右されてしまいます。熟練医の育成のため、ガイドの方法や修練方法の工夫が考えられてきましたが、多くの尿路結石患者さんを迅速に治療するためには限界がありました。今回用いた方法では、人工知能による腎穿刺の至適角度の調整と、ロボットアームによる確実な穿刺補助を行ってくれます。術者は角度や距離感、手ブレなどを心配することなく的確な穿刺を行うことができます。本研究では、このロボット支援透視ガイドが従来法と同等以上の治療成績を得ることができ、また熟練度にかかわらず施行できる可能性が高いことが証明されました。この結果は、より確実な治療を行えるだけでなく、施行できる医師が増えることにより、さらに多くの病院でこの手術が受けられるようになる可能性があります。このような技術発展により、尿路結石の医療逼迫(ひっぱく)の改善が期待できます。

 【用語解説】

 ・尿路結石…腎臓・尿管・膀胱・尿道の中に結石が生じ、尿路の通過障害や感染を起こすもの。
痛みや血尿などを伴うことも多く、世界3大疼痛病の一つとしても知られる。
 ・経皮的腎砕石術…背中や脇腹などの体表から腎臓内に瘻孔を作り、そこから内視鏡を使用して
結石を破砕し、除去する手術。
 ・腎穿刺…体表から腎臓内部の尿路に向かって針を刺し、瘻孔を作成する。X線透視や超音波画像
などをガイドに施行される。

 【研究助成】

 本研究はJSPS科研費「19H03791, 20K09544, 20K21658」、堀科学芸術振興財団、日東学術振興財団、カシオ科学振興財団の助成を受けたものです。

 【論文タイトル】

 A randomized, single-blind clinical trial comparing robotic-assisted fluoroscopic-guided with ultrasound-guided renal access for percutaneous nephrolithotomy

 【著者】

 田口和己1、濵本周造1*、岡田淳志1、杉野輝明1、海野怜1,2、加藤大貴1、福田英克3、安藤亮介1、河合憲康1、Tan Yung-Khan4、安井孝周1
 *Corresponding author
 1 名古屋市立大学大学院医学研究科 腎・泌尿器科学分野
 2 カリフォルニア大学サンフランシスコ校 泌尿器内視鏡分野
 3 名古屋市立大学大学院医学研究科 共同研究教育センター
 4 Urohealth Medical Clinic

 【掲載学術誌】

 学術誌名:The Journal of Urology
 DOI番号:10.1097/JU.0000000000002749

 【研究に関する問い合わせ】

 名古屋市立大学 大学院医研究科 腎・泌尿器科学分野 講師 濵本周造・田口和己
 住所:名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
 TEL: 052-853-8266        FAX:052-852-3179
 E-mail:ktaguchi@med.nagoya-cu.ac.jp

 【報道に関する問い合わせ】

 名古屋市立大学 病院管理部経営課経営係
 名古屋市瑞穂区瑞穂町字川澄1
 TEL:052-858-7529 FAX:052-858-7537
 E-mail:hpkouhou@sec.nagoya-cu.ac.jp


医学部・学会情報