治療・予防

まぶたが下がったり、腕が脱力したり
~理解されにくい難病「重症筋無力症」~

 車の運転中に片方の目のまぶたが下がる。右目と左目の視界がずれて距離感が狂ってしまう。髪の毛を乾かしている時に急に腕の筋力が低下してドライヤーを持てなくなる。こんな症状は指定難病の一つである「重症筋無力症」(MG)の恐れがあり、専門医を受診したい。病気のつらさに加え、周囲の理解を得にくいことが患者を苦しめている。

重症筋無力症で左まぶたが下がる=一般社団法人「全国筋無力症友の会」提供

重症筋無力症で左まぶたが下がる=一般社団法人「全国筋無力症友の会」提供

 運動神経への信号妨害

 脳の運動野の電気刺激がアセチルコリンという物質を介して運動神経の先端に行き、筋肉に伝わる。アセチルコリンの受容体を攻撃する異常なタンパク質が筋無力症を引き起こし、患者の85%にこのタンパク質が見られる。

 異常なタンパク質によってアセチルコリンと受容体が結合しにくかったり、結合しても早く壊れてしまったりする。

 ◇「ただ疲れやすい」とは違う

 脳神経内科千葉の川口直樹・神経研究所長は重症筋無力症について「眼瞼(がんけん)下垂や嚥下(えんげ)障害、口や舌など音を作る(構音)筋肉の障害などが日常生活に大きな影響を及ぼし、QOL(生活の質)を低下させる」と説明した上で、「最も問題なのは呼吸困難で、命に関わることがある」と指摘する。

 重症筋無力症の症状は、単に筋肉が疲れやすいということとは意味が異なる。健康な人でもある時間作業をすれば、筋肉は疲れてくる。そうではなく、急な筋力低下と「日内変動」と言って1日のうちに症状が変わるのがこの病気の特徴だ。

講演する川口直樹所長

講演する川口直樹所長

 ◇治療の中心はステロイド

 65歳で発症した女性は左のまぶたが下がったり、四肢の筋肉が低下し階段をはって上ったりするようになった。夕方になると、症状が悪化した。食事の途中で食べ物をかみにくくなったり、飲み込みづらくなったりする。検査をすると、肺活量が正常値を下回っており、重症筋無力症と診断された。

 胸腺に異常があるかどうかのチェックも大切だ。胸腺は免疫をつかさどるリンパ球に、異物が敵かどうかを教える役目を担っている。通常、10歳以降はどんどん小さくなるが、MGの患者はなぜか残るケースが多い。川口所長は「胸腺腫という難しい病気の患者もいる。必ずCTで胸の検査を行い、必要であれば手術で胸腺を取ってしまう」と説明する。

 治療はステロイドの投与が中心になるが、副反応の問題がある。川口所長は「患者の負担を軽減するために、ステロイドの治療をなるべく抑える傾向にある」と話す。また胸腺摘除は「対症療法であり、高齢者らに対しては考慮するケースもある」と言う。

急に階段の上り下りが困難になる(イメージ写真)

急に階段の上り下りが困難になる(イメージ写真)

 ◇患者の会への相談増加

 「どこの病院に行ったらよいのでしょうか」

 「運転手をしているが、仕事を辞めざるを得なくなり、困っています」

 NPO法人「筋無力症患者会」理事長の恒川礼子さんによると、2022年になって毎日のようにこんな相談が寄せられているという。離職すれば、収入が途絶えることになる。

 学校や会社で、筋無力症の患者が周囲に理解されることは少ないのが実情だ。例えば、ある時間に急に作業のスピードが退化すれば、「サボっている」「やる気がない」と見られがちだからだ。

 ◇4割「怠けていると思われた」

 アルジェニクスジャパンが22年4~5月に実施した重症筋無力症の通院患者を対象にした調査によると、「困っている症状」として、少し歩いただけで疲れたり、いつもの仕事や作業を続けるのが困難になったりする「易疲労性」、「眼瞼下垂」、物が二重に見える「複視」、「腕や下肢の脱力」などが挙げられた。注目したいのは、周囲の人や友人、家族らからの理解が得られず、「怠けている」と思われた経験を持つ人が約4割に上った点だ。

 ◇趣味や旅行をしたい

 「治療しているにもかかわらずできなくなったこと」について聞いたところ、「運動」が7割を超えてトップだった。「友人と出掛けること」、「趣味を楽しむこと」、「旅行に行くこと」なども約6割に上った。

 そういう中で、恒川理事長は「最近は学校や企業から筋無力症の人に対してどういう配慮をすればよいか、という問い合わせも来るようになった」と話す。周囲の理解が進んでいくことを期待する心情がうかがえる。(了)

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