Dr.純子のメディカルサロン

難しい母と娘の関係
~求められる寛容性~

 8月に東京・渋谷で起きた女子中学生による通り魔事件。逮捕された中学生が「母親を殺す予行演習」と語ったことで、同じ年代の娘を持つ母親から「衝撃を受けた。自分と娘はコミュニケーションがうまくいっているのだろうかと考えてしまった」という言葉を聞きました。母親と娘の関係については、「一卵性母娘」といわれるようにいつも行動を共にして共依存的になるケースがあります。一方、鬼母で苦しかったという娘から悩みの相談を受けることも多く、特にそうした支配的な母との関わりが成長後の人生にも影を落としてしまう場合が少なくありません。母娘関係の難しさはどこにあるのか考えてみたいと思います。

(文 海原純子)
商店街を歩く親子

商店街を歩く親子

 ◇別人格扱いできず

 母親は娘と性が同じため、自分と違う人格として受け入れるのが難しいとされています。性が異なる息子は人格が異なる人間として捉えられるのですが、娘の場合は自分の一部のように感じてしまうことがしばしばです。このため「娘には自分らしく伸び伸び生きてほしい」と思う一方、「自分の希望通りになってほしい」「自分の言うことを聞いてほしい」と思う気持ちもあり葛藤が生まれます。この葛藤を乗り越えて娘が自分の人生を歩むのを後押しできる母親だといい関係が構築されます。

 ◇重なる思春期と更年期

 子どもが小さい頃は、女の子は母親の言うことを聞いて「いい子」でいるものです。他者の視線から、いい子でいるのが認められる条件であると感じ、周りに合わせることを学びます。母親との関係も穏やかです。ただ、思春期になると自分の意見や希望を持つようになります。親の意見や希望と合わない事柄も増え、親が娘の意見を十分に聞かないとコミュニケーション不全が起こります。娘が思春期の時に母親がちょうど更年期という巡り合わせは珍しくありません。母親の体調や気分が不安定で娘の話をあまり聞けないような場合、親に批判的な視線を向けるようになった娘との関係が悪くなりがちです。

 ◇相互に過剰な要求

 母親からの相談では、「昔は言うことを聞いて優しい子だったのに」という言葉を聞いたりします。娘の人格が変わったわけではなく、成長した娘が自分の意見や希望などを口に出し、母親の意見と食い違ってしまうことなどが背景にあります。娘の日常生活のこまごまとしたことまで自分の思い通りにならないと機嫌が悪くなるような母親もいますが、そうした母親は娘に過剰な要求をしていると気が付いていません。娘の交友関係などについても話し合いをせずに一方的に制限し、コミュニケーションに支障を来してしまうケースが見られます。

 ただ、娘から「感情的」と言われる母親が実際にはそれほどでない場合もあります。母親に対して持つ娘の理想像と違う行動や態度を取ったとき、しばしば厳し過ぎる視線が注がれ誇張されるからです。互いに自分の理想通りになってほしいという思いがあり、それが両者の関係を悪化させます。「よその家の母親なら許せるけどうちの母親だと許せない」「よその子は許せるけどうちの子なら許せない」となってしまうのです。母も娘も少し寛容さが必要ですし、父親など家族がクッションになってうまくコミュニケーションを取ることも大事です。

 ◇コミュニケーション維持を

 若い世代の女性たちに、思春期にどんな態度の母親だと話をしたくなくなったか聞いたことがあります。多かったのは次の三つです。

・感情的で怒るとだんまりを決め込む
・話し掛けても顔も見ようとしない
・自分だけしゃべって反論をシャットアウトする

 怒ると黙り込むという話はよく聞きますが、これはコミュニケーション不全の第一歩になります。母親に批判的な目を向け心を閉ざしてしまう事態も起きますから、黙り込んだり無視したりするのは避けてほしいものです。

 「コミュニケーションは閉ざさない」「自分とは違う人格という認識を持つ」。母と娘の良好な関係づくりに必要なのはごく当たり前のことに見えます。しかし、実行は容易ではないようです。(了)

【関連記事】


メディカルサロン