Dr.純子のメディカルサロン

誹謗中傷から身を守る
~ハラスメント多発時代~

 羽生結弦選手の電撃離婚と誹謗(ひぼう)中傷が要因との説明には驚きましたが、同選手に限らず、誹謗中傷で心が傷ついたり、生活が脅かされたり、ひどい場合には命の危機にまで追い込まれたりするケースが増えています。SNSの普及で、かつては小さなコミュニティーの中にとどまっていた問題が瞬時に日本中、著名人の場合は世界中に拡散される怖さを、この電撃離婚で改めて感じた方も多いと思います。

(文 海原純子)

SNSでいわれなき中傷にさらされるかもしれない(イメージ)

SNSでいわれなき中傷にさらされるかもしれない(イメージ)

 ◇安全な立場から「言葉の暴力」

 SNSでの誹謗中傷は自分の実名を明かさない場合が多く、匿名という安全な立場でものを言う安心感から言葉がエスカレートする傾向があります。職場などで起きるハラスメントとも共通する部分が多いと言えます。職場のハラスメントも上司と部下、発注者と下請けの立場にある業者などのケースで見られるように、自分は安全な立場に身を置いた行為です。

 言い返せない弱い立場にある人に対する言葉の暴力という点では、収入を得ているのが夫だけという家庭内の夫による妻へのモラハラ発言も共通しています。誹謗中傷もハラスメントも現代の大きな問題で、こうした行動に至るまでの類似の心理もありますので、まずそれを知る必要があるでしょう。

 誹謗中傷やハラスメントから身を守るためには、「なぜそうした行為をするのか、執拗(しつよう)に繰り返すのか」を知っておくことも大事です。知っていれば、被害を受けたときの心の痛みはかなり変わってきます。

 ◇加害者の心理

 1.自己肯定感の不足と嫉妬

 誹謗中傷やハラスメントは、相手が言い返せない場合や弱い立場の人に対して行われます。相手が反撃できないと分かっていて行う行為は、自分への自信のなさとも言えます。自己肯定感が不足すると、他人と自分を比較して「自分が上だ」と思うと安心し、「自分が負けている」と感じると嫉妬します。その嫉妬の感情が誹謗中傷に変わります。相手をおとしめることで自分が上の立場になったような優越感を覚えるので、相手が自分の発言で傷つけば傷つくほど優越感が増してやめられなくなります。自分の心が満たされないとき、幸せな人を見るとねたましく感じ、相手をおとしめたり不幸にしたくなったりする場合があります。

 誹謗中傷はどうでもいい相手にはしないものです。自分にはできないことをする人、欲しくても自分には手が届かないものを持っている人、幸せに見える人、周りから称賛されている人に対して嫉妬の感情が起こりやすいと言えます。ただし、「自分とはあまりにも世界が違う」と認識できる相手や、何を言っても傷つきそうもない相手は対象外です。自分とは違う国に住む、年の離れた著名人らがそうです。年齢や性別、出身地などで自分と共通する部分があり、しかも繊細そうに見える人は誹謗中傷しやすい相手となります。

 2.不満がたまり、はけ口がない

 ハラスメントの場合、行う人の多くがストレスを抱えていて、吐き出す場や方法がなく、鬱憤(うっぷん)がたまっています。その鬱憤を弱い立場、反撃できない立場の人に向けて、発言や態度で晴らすのです。気分次第の面があり、気分が良くないときやストレスがたまると相手に暴言を吐きます。

 誹謗中傷も、日々の生活に満足できず不満がたまっているにもかかわらず、はけ口がない場合に起こりやすい可能性があります。

 3.ゆがんだ正義感

 自分の倫理観や物の見方だけが正しいと信じ、他の意見を受け入れられない場合もSNS上で執拗な誹謗中傷を行うことがあります。ジェンダーに関わる倫理観や世代間の上下関係についての考え方、異文化や多様性に関わる問題、最近では新型コロナウイルスワクチンを巡っての医療関係者に対する誹謗中傷などです。「絶対に相手を許せない」という強い信念に基づいた発信が執拗に繰り返されます。

 4.いじめの連鎖

 ハラスメントをする人は、自分自身も反論できない相手からハラスメントを受けている場合があります。ハラスメントを受けた怒りをどこにもぶつけられず、自分に反論できない相手を見つけて暴言を吐いたりします。社内で上司から暴言を吐かれた人が、自分の部下に同じことをするというケースです。職場でハラスメントを受けた人が、飲食店や商店の店員などにクレーマーとして暴言を吐くという場合もあります。

ネットを離れ、自然の中で伸び伸びと。写真は北海道遠軽町の公園

ネットを離れ、自然の中で伸び伸びと。写真は北海道遠軽町の公園

 ◇対策

 1.情報をシャットアウト

 SNS上の誹謗中傷の場合は情報遮断、つまり、しばらくネットから離れることが有益です。つい不安になりネットを見てしまいがちですが、まずは離れるようお勧めします。

 2.反応しない・動揺しない・傷つかない・毅然とした態度

 SNSで誹謗中傷する人は、自分の投稿で相手が動揺し傷つくと、さらにエスカレートします。動揺したら相手の思惑に乗ってしまうことになりますから、「自分は大丈夫」と気持ちを落ち着かせてください。誰が発信しているのか分からないという不気味さで不安になるかもしれませんが、相手は自己肯定感がなく、ストレスで鬱憤がたまっている人なのだと考えて動揺しないことが大事です。

 3.一人で悩まない・相談する

 誹謗中傷やハラスメントは一人で悩まないようにします。問題を抱え込まず、身近で信頼できる人に相談しましょう。弁護士や相談窓口と連携し、SNSでの誹謗中傷には情報開示を求めるなどの対応を取ることもできます。不眠や食欲低下などの身体症状がある場合は、うつ状態になっているかもしれないので医師に相談してください。


 ハラスメントや誹謗中傷は、それを行う人物を特定して何らかの処分をするだけでは解決しません。その人自身が気が付かないうちにストレスや痛みを抱え込んでいたり、ストレスへの対処方法を知らなかったりすると思われるからです。問題行動をうやむやにしないだけでなく、問題行動を取る人のケアも併せて行えるような対策が不可欠と言えるでしょう。(了)

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