治療・予防

手術の技術と安全性が向上
~圧迫性頸髄症(群馬大学医学部付属病院 高沢英嗣病院講師)~

 箸やペンを扱いづらい、歩きにくいなどの症状で、高齢者の健康寿命を脅かす圧迫性頸髄(けいずい)症。手術治療も検討されるが、「首の手術は怖い」とのイメージも根強いだろう。群馬大学医学部付属病院整形外科の高沢英嗣病院講師は「最近10年間で手術法が進歩しています」と語る。

頸椎椎弓形成術

頸椎椎弓形成術

 ◇寝たきりの原因にも

 脊髄は脳から続く中枢神経で、背骨の中(脊柱管=せきちゅうかん=)を通っている。首の骨(頸椎=けいつい)・椎間板の老化や頸椎の靱帯(じんたい)が分厚く硬くなる後縦靭帯骨化症(こうじゅうじんたいこっかしょう)などが原因で脊柱管が狭くなると、脊髄が圧迫される。

 「圧迫だけでは症状の無い人もいますが、そこに背骨のぐらつきやけが(転倒)などの要因が加わり、症状が起こると考えられています」

 手足のしびれや痛みから始まり、進行すると細かな手作業が難しい、足がもつれて歩きにくい、尿や便が出にくいといった症状も表れ、転倒などを契機に寝たきりの原因になる例も。

 治療では、主に痛み止めやビタミン製剤などの投与が行われる。薬物療法の効果が見られない場合や重症例では手術を検討する。

 ◇手術に伴う負担減少

 代表的な手術法は「頸椎椎弓(ついきゅう)形成術」。頸椎の後ろ(椎弓)を切って開き、脊柱管のスペースを広げて脊髄への圧迫を解除する、日本で開発された方法だ。手術後の合併症には一時的な上肢まひなどがある。

 高沢病院講師と同大大学院医学系研究科整形外科学の筑田博隆教授らを中心とする研究グループは、北関東の九つの医療機関で1000例以上のデータを収集し、圧迫性頸髄症に対する頸椎椎弓形成術の有効性と安全性を調査した。

 その結果、この10年間の手術成績は良好で、特に〔1〕症状の原因部位の特定により、従来と比べ手術を行う箇所(椎弓)が減少〔2〕周辺の筋肉や靭帯を温存する割合が上昇〔3〕術後の一時的な上肢まひの発生率が低下―といった点が明らかになった。

 「患者さんの身体的負担は減り、安全性が高まったと言えるでしょう」。一方、誤嚥(ごえん)性肺炎や尿路感染症など術後感染症の発生件数は増加した。「これは患者さんの高齢化によるものと考えます。一方、再手術が必要な手術の傷口からの感染症は増えていませんでした」

 圧迫性頸髄症では、症状を自覚しても「年のせい」と放置してしまうケースが少なくないという。「症状に気付いたら、ためらわずに整形外科などの受診を。今回の調査で手術法の進歩や安全性の向上が明らかになったことで、高齢患者さんの治療選択肢が広がって、健康寿命の延伸に貢献できると考えます」と高沢病院講師は期待する。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)

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