インタビュー

多様な治療の選択肢~骨盤臓器脱
自分に合った方法を選ぼう 明樂重夫・明理会東京大和病院長に聞く(中)

 子宮やぼうこう、直腸など骨盤の中にある臓器が下がってきて脱出してしまう骨盤臓器脱。重症化すると外出が困難になるなど、日常生活に大きな支障を来し、人知れず悩む女性は多い。明理会東京大和病院の明樂重夫院長は「骨盤臓器脱の治療法は、どんどん進化しています。どんな選択肢があるかを知った上で、重症度やライフステージに合わせて、自分に最適な治療法を選びましょう」とアドバイスする。

 第2回は、骨盤臓器脱の治療法には、どんな選択肢があるのか、新しく開発されたペッサリー自己着脱法を中心に最新の情報を紹介する。

明樂院長

明樂院長

 ◇体操やペッサリーで症状を軽減

 ―骨盤臓器脱の治療法には、どんな選択肢がありますか。 

 治療法には、保存療法と手術療法があり、重症度や年齢、本人の希望によって異なります。女性の長い一生の中で、その都度、最適なものを選んで変えていけばいいと思います。

 保存療法には、骨盤底筋体操(第3回で解説)とペッサリー療法があります。ステージⅠの場合の第一選択は、肛門と腟を締めることで骨盤底筋を強くする骨盤底筋体操です。損傷してしまった骨盤底筋が修復されるわけではありませんが、補強することで、臓器が下がってくるのを防ぐことができます。

 リング状の医療器具を腟から挿入して、臓器が落ちてこないよう下支えするペッサリー療法は、重症度にかかわらず選択できます。

 ステージⅢ以上でもペッサリーは対応可能ですが、腹腔(ふくくう)鏡手術やロボット手術などで、骨盤内の臓器が落ちてこないよう固定する手術療法も選択肢になります。

 ―できれば手術したくない場合、症状を改善する方法はありますか。

 ペッサリーを使った治療法があります。手術を希望しない場合や手術の待機期間が長いときなど、ペッサリーで一時的に症状を抑えることもあります。ペッサリー療法には医療機関で3カ月ごとに交換する方法と、自分でペッサリーを出し入れする自己着脱法があります。

 医療機関で装着する場合、3カ月に1回は交換し、腟壁を洗浄し、腟の粘膜が荒れていれば休むといったフォローが不可欠です。ペッサリーを長期間入れたままの状態にすると、腟の血行が悪くなって、びらんが生じ、おりものが増えて、感染を起こしやすくなります。また、何年も入れっぱなしにした結果、腟壁に食い込んでしまう場合もあるからです。

 当院では、必要なときだけ装着して、後は外す自己着脱法を勧めています。骨盤内の臓器が脱出してくるのは、主に外出中です。寝ている間は重力で下がってくることはないので、ペッサリーを日中だけ着けて、夜は外すようにします。患者さんに大変好評で、「こんないい方法があったのか」と自分でも驚いているほどです。

ペッサリー療法の装着イメージ

ペッサリー療法の装着イメージ

 ◇自己着脱すれば妊娠も可能

 ―自分でペッサリーを出し入れするのは難しいですか。

 最初は、「自分でペッサリーを入れるなんて無理」と言っていた患者さんも、きちんと看護師が指導すれば、ほとんどの人ができるようになります。

 自己着脱法を選択した患者さんの満足度は非常に高く、手術を予定していて、順番を待つ間の応急処置としてペッサリーを使用した患者さんが気に入ってしまい、そのまま手術をキャンセルする、などといったケースも出ています。

 自己着脱法には、妊娠希望の人でも使用できるというメリットもあります。一人産んだあとに骨盤臓器脱になり、もう一人産みたい、という場合、性行為のときに外すようにすれば、妊娠も可能です。

 なお、妊娠中期以降は子宮が大きくなっていくため、骨盤に引っ掛かって脱出してこなくなるので、骨盤臓器脱でも妊娠、出産は可能です。

 ―ペッサリーは誰でも使えますか。

 腟の奥行きと幅が重要なポイントになってきます。奥行きが浅くて幅が広いと、ペッサリーが脱落しやすいため、入り口が狭く、奥行きが長い腟の方が向いています。

 実際に装着してみて、排尿や排便しても脱落しないかどうかなど、チェックしながら、サイズ調整も行います。ほとんどの人が使えますが、どのサイズを試しても、脱落してしまって使えないという場合もあります。

 また、自己着脱をしていた人でも、高齢になると、自分でいつまで着脱できるか不安だと言って、手術を選ぶ人もいます。

 ―新たにペッサリーを開発したのは、なぜですか。

 自己着脱が簡単にできるようにするためです。ペッサリーの素材が硬いと、着脱の時に痛みがあり、装着中も腟に違和感を訴える人が多かったからです。

 軟らかい素材で、ある程度、腟の形にあわせて変形してくれたら、もっと患者さんが自分で楽に着脱できるし、装着後の違和感も減るのではないかと思い、これは自分で作るしかないと思いました。そこで、ペッサリーを作っている国産メーカーに話を持ち掛け、シリコン製で非常に軟らかく、着脱が痛くない、違和感がない安全な素材のペッサリーを開発し、2023年夏に発売されました。

 まだ、ペッサリーの自己管理法を行っている婦人科はごく一部ですが、今後、希望する患者さんが増えてくれば、導入する医療機関も増えていくのではないかと期待しています。(ジャーナリスト・中山あゆみ)

 明樂重夫(あきら・しげお) 1983年日本医科大学卒業、87年同大学大学院修了。東部地域病院婦人科医長、日本医科大学付属病院産婦人科病棟医長を経て、2011年より日本医科大学産婦人科教授。22年4月より現職。

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