治療・予防

気付きにくい睡眠時無呼吸症候群
~家族の勧めが受診後押し~

 日中に強い眠気を感じる、寝覚めが悪かったり起床時に頭痛がしたりする、夜間に頻繁にトイレに行く―。こんな症状がある人は睡眠時無呼吸症候群かもしれない。この疾患はさまざまな合併症を引き起こす恐れもあり、疑いがあれば速やかな受診が望ましい。自分では気付きにくい病気のため、生活を共にする家族ら周囲の勧めが効果的だという。

睡眠中に呼吸が繰り返し一時停止する男性(イメージ画像)

睡眠中に呼吸が繰り返し一時停止する男性(イメージ画像)

 ◇潜在患者940万人以上か

 一晩に10秒以上の呼吸停止が30回以上、または1時間に5回以上あると同疾患と診断される。いびきの合間に無呼吸状態になるのが典型的なパターンで、大半は鼻・口から肺への空気の通り道である気道がふさがってしまうのが原因だ。日本人の潜在患者は940万人以上、30~60代では7人に1人に上るとの推計もある。

 無呼吸になりやすい人はいる。久留米大学の内村直尚学長は、患者に多く見られる特徴として①下顎が小さかったり後方に引っ込んでいたりする②首が短い・太い③舌や舌の付け根が大きい、へんとう肥大④肥満、体重増―などを挙げる。

 「下顎が小さく、後ろに下がっている人は解剖学的に気道が狭い。欧米人に比べアジア人は下顎の発達が悪く、日本人は無呼吸になりやすい体質を背負っていると言える。また一般的に、体重が20歳の頃に比べ10~20キロほど増えるとリスクが上がってくる」

 ◇女性は閉経後に増加

 痩せているからといって安心はできない。要因は他にもさまざまなものがあり、幾つかを併せ持つと発症に至ったりする。喫煙や飲酒などは危険因子として知られる。

 また、男性の疾患というイメージが強いが、女性も発症する。女性の場合は「閉経後に増加する。女性ホルモンが減ると気道が狭くなるため、無呼吸になりやすい」(内村氏)という。

睡眠時無呼吸症候群の症状(内村直尚氏の講演資料より)

睡眠時無呼吸症候群の症状(内村直尚氏の講演資料より)

 ◇眠気が交通事故誘発も

 無呼吸は睡眠の質を低下させ、日常生活に悪影響を及ぼし得る。具体的には、冒頭に記した日中の眠気などに加え、思考力が低下したり、気分が落ち込んだりし、ひいては仕事や学業のパフォーマンス低下を招く可能性がある。

 眠気は交通事故の誘因にもなりかねない。内村氏は「運転中であっても我慢できない眠気に襲われ、倒れるように寝てしまう」と説明。実際に、路線バスが運転手の居眠りで電柱に衝突し、19人が重軽傷を負った事例(2015年、東京都)など、関連事故が多数報告されている。

 ◇懸念される合併症

 さらに危惧されるのは、放置すると合併症の危険性が増大する点だ。同疾患が引き起こす合併症は高血圧狭心症、心筋梗塞、脳卒中糖尿病、インポテンツ、不整脈など数多く、発症リスクは高血圧で1.4~2.9倍、糖尿病で1.6倍、重症の無呼吸だと脳卒中による死亡が3.3倍、不整脈が4倍に上昇するとの研究結果もある。内村氏によると、夜の睡眠が邪魔されることに加え、呼吸停止に伴って体や脳の酸素濃度が低下し、「循環器系や糖尿病のリスクが高くなる。それ以外にもさまざまな合併症が現れることがある」という。

 ◇すれ違う心理

 就寝中の無呼吸に気付き、早期受診につなげるにはどうしたらよいのか。医薬品・医療機器を製造・販売する帝人ファーマの調べでは、受診を検討するきっかけとしては「家族や知人からの勧め」が最も多かった。身近な存在に背中を押されれば、行動を起こしやすくなるとみられる。

 ただ家族といえども、やみくもに受診を促せばよいわけではない。大阪大学大学院の平井啓准教授によると、患者は家族から強い口調で言われたりすると、かえって話を聞かなくなる恐れがある。

 同氏は「患者と家族では見えている世界が違い、すれ違いが起きる」と話し、次のように例える。「疾患の治療は患者にとっては初めて来た深い森で、目の前の景色しか見えない。ドローンで上空から見下ろすように全体像や将来のリスクなどが分かる周囲の人に『左側の道に行けば出口がある』と言われても、信じてそちらを選ぶのは難しい」。この結果、互いに「分かってもらえない」と不満を抱いてしまう。

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