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大事な場面で眠り込む
~つらい過眠症「ナルコレプシー」~

 授業中や試験中、会話中に眠り込んでしまうことがよくある。起きた後はすっきりしているが、しばらくするとまた眠くなる。さらに、笑うなどの気持ちの変化をきっかけに、急に体の力が抜けてしまい倒れてしまったりする。本人も周囲の人も驚くだろう。それは異常事態ではなく、「ナルコレプシー」という病気かもしれない。2月28日の「世界希少・難治性疾患の日(レア・ディジーズ・デー)」を前に患者の会や関係者は社会の理解を強く訴えている。

 ナルコレプシーは中枢神経の機能異常を原因とする過眠症という病気の一つ。睡眠と覚醒のバランスを取る神経伝達物質オレキシンの低下が関係しているとされる。日本人の患者は約600人に1人で、4万人前後と推定されている。希少性疾患であり、認知度はあまり高くない。

もし大事な商談中に眠り込んでしまったら…

もし大事な商談中に眠り込んでしまったら…

 ◇学業や仕事に影響

 思春期に多く発症するため、高校受験で奮闘する中学生がこの病気にかかると厳しい。受験勉強中に急に眠気に襲われ、「頑張りたくても頑張れない」状態になる。本人にとっては訳が分からないし、保護者ら周囲も不安になる。

 治療は薬剤中心だが、対症療法で限界があり、完治は難しい。就職しても、「もし大事な商談中に眠り込んでしまったら大変だ」などといった不安を抱えるかもしれない。

 直木賞作家で麻雀をテーマに名作を書いた阿佐田哲也(色川武大)は、この希少性疾患にかかっていたという。麻雀をしながら、急に睡魔に襲われてしまう。古い麻雀ファンには、ナルコレプシーという病名を覚えている人もいるだろう。

 ◇楽しいときに脱力発作

 食事や会話の最中に突然強い眠気に襲われ、眠ってしまう。一緒に食事を楽しんでいた友人や知人は驚くだろうし、会社などでの会議中に眠り込めば、上司や同僚のひんしゅくを買うだろう。

 ナルコレプシーが併発する症状の一つにカタプレキシー(情動脱力発作)と呼ばれるものがある。主に楽しいという感情が生じたときに、筋肉に力が入らなくなる脱力状態に数秒から数分間陥ってしまう。頻度は1日に数十回から数週間に数回とさまざまだ。

 武田薬品工業領域戦略ユニット・メディカルディレクターの松尾雅博氏はカタプレキシーについて「下に崩れ落ちる発作だ」と言う。楽しい感情とリンクするため、患者は楽しい事が怖くなり、それを避ける生活スタイルを取ろうとする。楽しさを遠ざければならない日常はあまりにもつらい。

体に各種センサーを付けて行う検査=作成「いらすとや」

体に各種センサーを付けて行う検査=作成「いらすとや」

 ◇二つの検査がポイントに

 松尾氏は「まれな疾患であることから、初診で確定診断に至るケースは少ない」と言う。

 慢性的な睡眠不足があったり、生活リズムの乱れがあったりするかなど日常生活を確認した後、二つの検査がポイントになる。ポリソムノグラフィー(終夜睡眠ポリグラフ)検査=PSG=は、脳波計や鼻付近の乱気流、呼吸における胸郭と腹部の運動を測定するセンサーを被検者に装着した上で、病院の睡眠検査室などで一晩寝てもらう。日中に眠気を引き起こす症状はナルコレプシー以外にもあるため、鑑別のための重要な検査となる。

 もう一つは反復睡眠潜時(MSLT)検査だ。睡眠潜時は「眠ろう」と意識してから、実際に眠るまでの時間を指す。典型的なパターンでは、起床後1.5~3時間ほどで1回目を検査し、その日のうちに間隔を空けて4~5回の検査を行う。セッションごとの睡眠潜時が8分以下なら、病的な眠気と判断される。

 ◇社会の方が歩み寄ってほしい

 NPO法人「日本ナルコレプシー協会」副理事の駒沢典子さんは、病気の当事者だ。小学生の頃に発症した。両親の前でよく寝てしまうし、友人と遊んでいる時も眠くなり、トイレで隠れて眠ることもあったと振り返る。

 「慰霊の黙とうで寝てしまったが、自分では覚えていない。隣の男子生徒から『お前、黙とう中に寝ていたし、寝言も言っていたよ』と注意され、穴があったら入りたいほど恥ずかしかった」

 昼間の眠気以外にも患者を苦しめる症状がある。夜間の睡眠が分断されて眠れない。「午前2時、3時に目が覚め、眠れなくなる。仕方なく、テレビを見て過ごす」

 普通の人の居眠りと私の居眠りはどう違うのか。社会は私たちのような病気に、なかなか思いが至らない。「社会側が当たり前の生活ができない人もいることを理解し、歩み寄ってほしい」と望んでいる。(鈴木豊)

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