肝機能低下で神経症状
有害物質が体内循環
時間や場所などが分からなくなる、最近、性格が変わったと言われる、お金をまくなど異常な行動を起こす―こうした症状が表れると認知症と思いやすいが、肝機能の低下が原因かもしれない。この「肝性脳症」について関西医科大学付属病院(大阪府枚方市)消化器肝臓内科の岡崎和一主任教授に聞いた。
▽解毒作用が低下
岡崎主任教授は「重症の肝炎や肝硬変などで肝臓の機能が低下して、精神疾患のような症状が表れるのが肝性脳症です」と説明する。
便秘は大敵。排便コントロールが大切
肝臓には、有害な物質を分解する解毒作用がある。しかし、肝臓の機能が低下すると解毒作用も落ち、処理しきれない有害物質が体内を循環することになる。タンパク質が分解される際に生じるアンモニアが解毒されないと、血液中のアンモニア濃度が上昇する。その結果、脳内の神経伝達を妨害して神経症状が表れると考えられている。
肝臓は、体の組織のもとになるタンパク質を構成するアミノ酸のバランスもコントロールしているが、血液中のアミノ酸のバランスが崩れることも脳神経に影響を及ぼしている可能性がある。
肝性脳症になると、眠れない、怒りっぽくなった、暗算ができないといった訴えのほか、錯覚や幻覚に軽度の意識障害を伴うせん妄、異常行動などを起こすこともある。また、腕を前に伸ばして手を広げると、ばたばたとゆっくり震える「羽ばたき振戦」を起こす人もいる。重症になると、黄疸(おうだん)や腹水が表れるだけでなく、昏睡(こんすい)状態に陥るケースもある。
肝性脳症の可能性がある場合は、血中のアンモニア濃度や肝機能の状態を調べる。また、肝性脳症患者の脳波は特殊なパターンとなるため、脳波を測定して認知症と区別することも重要だ。
治療は点滴で体内のアミノ酸のバランスを整える。また、アンモニアは主に大腸に残っている便から発生するので、便通をよくするよう食事や薬で腸内を整え、必要なら下剤を飲む。大抵、こうした治療をすれば、深刻な症状も治まるという。
岡崎主任教授は「急に認知症になったと感じるような精神症状があったら、主治医に相談してください」と呼び掛けている。(メディカルトリビューン=時事)(記事の内容、医師の所属、肩書などは取材当時のものです)
(2018/12/06 06:00)