2024/11/29 05:00
なぜ尿検査では中間尿を使うのか
私は日々肥満の人に向けて、保険診療で減量指導を行っています。
これまではBMI35以下で糖尿病のない人の場合、保険診療で減量のために処方してもらえる薬はありませんでした【時事通信社】
しかし、日本の肥満診療にはさまざまな制限があり、保険適用の範囲内では真に有効な治療法を提供できず、もどかしい思いをすることも多々ありました。
今回の記事では、現在の肥満診療の問題点と、私が大きな期待を寄せている新しい薬について、ぜひ皆さんに紹介したいと思います。
◆肥満はそもそも病気?
まず、肥満はBMI25以上と定義されています。そして肥満の人に起こりやすい以下の11の疾患を「肥満関連疾患」と呼びます。
1. 耐糖能障害(糖尿病・耐糖能異常など)
2. 脂質異常症
3. 高血圧
4. 高尿酸血症
5. 冠動脈疾患(心筋梗塞・狭心症)
6. 脳梗塞、脳血栓症、一過性脳虚血発作(TIA)
7. 脂肪肝(非アルコール性脂肪性肝疾患、NAFLD)
8. 月経異常、不妊
9. 睡眠時無呼吸症候群(SAS)
10. 運動器疾患:変形性関節症(膝、股関節)、変形性脊椎症、手指の変形性関節症
11. 肥満関連腎臓病
肥満にこれらの疾患を合併するか、その合併が予測される場合で、医学的に減量を必要とする病態を「肥満症」といい、疾患として取り扱います。
◆日本の肥満治療の現状
保険診療では、疾患ごとに使える薬が細かくルール化されています。これまで、肥満症に対して唯一、処方できたのが、マジンドールという満腹中枢に働きかける薬でした。
しかし、この薬は薬理作用が覚せい剤と類似しており、依存症のリスクが高いため、BMI35以上の高度肥満の人にしか処方できませんでした。
一方、すでに糖尿病治療薬として広く使われているGLP-1受容体作動薬という薬には、空腹感を軽減し、満腹感を高めることにより、食事の量を減らしてカロリー摂取量を抑え、体重減少を促す効果があります。
低血糖、便秘や下痢などの副作用は起こり得ますが、マジンドールと比べてかなり安全性は高いと言えます。しかし、この薬は糖尿病治療薬としてのみ承認されているため、糖尿病がない肥満症の人には使うことができません。
そのため、減量目的でGLP-1受容体作動薬を使いたい人は、自由診療のクリニックを受診し、代謝疾患の修練を受けていない非専門医に高額で処方してもらうしかありませんでした。
◆期待の新薬とは
肥満を取り巻くそんな現状を打破すべく、2023年1月、ウゴービ(セマグルチド)という名前のGLP-1受容体作動薬が、新しく肥満症の治療薬として承認されました。
BMI27以上かつ、先に挙げた肥満関連疾患のうち、二つ以上を持つ人が対象になります。週1回、自分で皮下注射するタイプの薬で、他のGLP-1受容体作動薬と同じく、高い減量効果が認められており、投与68週間時点で13%程度もの体重減少が期待できます。
保険診療で処方が可能になったことで、専門医による診察や定期フォローを受けることができます。より安全に、かつ自由診療よりも安価にGLP-1受容体作動薬を使用できるようになるでしょう。
減量に薬の力を借りたいと思ったら、自由診療のクリニックを受診するのではなく、内科の医師にまず相談するのが、体にも財布にもベストと言える時代がやって来ます。
過去の記事で繰り返しお伝えしている通り、肥満症治療の基本は食事・運動療法です。そこに適切な薬物治療を併用することで、ますます皆さんの減量のお手伝いができる日がやって来ることを、保険診療に携わる医師として、心より楽しみにしております。
(2023/04/28 05:00)
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