一流に学ぶ 減量手術のパイオニア―笠間和典医師

(第5回)
最初の患者は体重130キロ
難易度高い手術へ挑むと決意

 ◇本場のビデオ見て「学ばなければ」

 ビデオで初めて見た腹腔鏡下胃バイパス手術の内容に、笠間氏は驚いた。すでに甲状腺、乳腺、肺、胃、大腸、副腎、膵臓(すいぞう)、胆道、婦人科疾患など、ほとんどすべて内視鏡下手術を手掛けていたが、その手術はまるで次元が違った。

 「当時は腹腔鏡手術といっても消化管をつなぐ(吻合=ふんごう)ときは腹腔鏡の器具を入れる穴とは別に小切開をして、手で直接縫っていたので、正確には腹腔鏡補助下の手術でした。ところがビデオで見た手術ではそうした小切開をせずに、おなかの中で吻合していたんですよ」

腹腔鏡手術のトレーニング器具を使って見せる笠間和典氏

 難しい手術を、特に難易度の高い肥満症の患者に対して行っていたことも驚きだった。

 「太っている人のおなかに穴を開けてのぞくと、脂肪の海のような状態です。手術の準備でおなかに二酸化炭素を入れて手術操作の空間をつくる『気腹』をしても、あまり膨らまないし、ワーキングスペースが非常に狭い。小さな穴から手術用の鉗子(かんし)を入れて操作するにも、分厚い皮下脂肪のためになかなか自由に動かせません」と笠間氏。

 肥満者の外科手術は、どんな簡単な手術でも太っているというだけでリスクが高いといわれる。まず麻酔がかかりにくい。皮下脂肪が厚いため、目標とする臓器までたどり着くだけでも時間がかかる上、縫った傷が開きやすい。内臓脂肪に埋もれて血管や神経が見えにくい―など幾つもの困難が付きまとう。

 開腹手術の場合、視野が悪く、縫合不全を起こしやすい。だからこそ肥満者の多い米国やブラジルで傷の小さな腹腔鏡手術が普及してきたという経緯もあるのだが、あらゆる腹腔鏡手術の中で、重症肥満の患者に対する減量手術は、最も難易度が高い手術の一つといえる。

腹腔鏡手術で縫う練習

 「これは何とかして学ばなければいけないと思いました」。笠間氏の新しい挑戦が始まった。(ジャーナリスト・中山あゆみ)

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