「医」の最前線 感染症・流行通信~歴史地理で読み解く最近の感染症事情~
コンゴ民主共和国の熱病と米国の鳥インフルエンザ
~どちらが本当の脅威か~ 東京医科大客員教授・濱田篤郎【第12回】
◇米国での鳥インフル拡大
このようなパンデミックの条件を満たしつつある感染症が、本連載の第7回でご紹介した米国で流行中の鳥インフルエンザH5N1です(https://medical.jiji.com/column4/212)。
図 米国での鳥インフルエンザH5N1の感染者発生状況(2024年)=米疾病対策センター(CDC)ホームページより
今年に入ってから、H5N1型ウイルスはトリの間だけでなく、ウシにも感染するようになり、現在までに全米の800以上の牧場で流行しました。さらに4月からは牧場の労働者などにも患者が多発し、その数は12月中旬までにカリフォルニア州などで60人以上に達しています(図)。患者の症状は結膜炎や上気道炎など軽微ですが、その後、12月18日に米疾病対策センター(CDC)はルイジアナ州で重症患者が初めて発生したことを報告しました。
現在までに米国のほとんどの患者は、ウシやトリに接触してうつっていますが、ウイルスが変異してヒトからヒトに飛沫感染し、呼吸器感染症として流行するようになると、パンデミックの条件の一番目を満たすことになります。二番目の「交通の便が良い場所での拡大」という条件は、米国内で患者が多発していることから既に満たしており、H5N1はパンデミックに近い位置にいると言えるのです。
◇新型インフルの流行になるか
鳥インフルエンザのウイルスがヒトからヒトに広がると、新型インフルエンザの流行になります。前回はメキシコから拡大した2009年で、それから15年が経過しており、そろそろ次の流行が起きても不思議ではない時期に入っています。
現在のH5N1型ウイルスの状況を調べた研究結果が最近、幾つか報告されています。東京大学の新世代感染症センターの研究では、このウイルスが飛沫感染で実験動物の間に広がることを明らかにしました(10月29日付の英科学誌ネイチャー電子版)。また、米国のスクリプス研究所によれば、ウイルスにあと一カ所変異が起きると、ヒト細胞への結合が容易になる可能性があるとのことです(12月5日付の米科学誌サイエンス電子版)。こうした科学的エビデンスからも、H5N1はパンデミックを起こしやすいと考えられています。
なお、日本の国立感染症研究所は、H5N1型ウイルスがヒト~ヒト感染を生じさせる可能性が、いまだ低いとするリスクアセスメントを12月12日に発表しました(https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ta/bird-flu/2621-cepr/13027-h5n1-riskassess-2412.html)。
24年の年の瀬を迎え、コンゴ民主共和国での熱病、米国での鳥インフルエンザと、世界流行の脅威を感じさせるニュースが次々に入っています。私たちは、それぞれの感染症の特徴を正確に捉えて、冷静な対応をすることが必要なのです。(了)
濱田客員教授
濱田 篤郎(はまだ・あつお)
東京医科大学病院渡航者医療センター客員教授
1981年東京慈恵会医科大学卒業後、米国Case Western Reserve大学留学。東京慈恵会医科大で熱帯医学教室講師を経て2004年海外勤務健康管理センター所長代理。10年東京医科大学病院渡航者医療センター教授。24年4月より現職。渡航医学に精通し、海外渡航者の健康や感染症史に関する著書多数。新著は「パンデミックを生き抜く 中世ペストに学ぶ新型コロナ対策」(朝日新聞出版)。
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(2024/12/20 05:00)
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