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第5回 乳がんの手術、温存か全切除か
「浸潤」なければリンパ節は取らないのが基本 東京慈恵会医科大の現場から

 ◇非浸潤性乳がんの手術の流れは

 ここでは、非浸潤性乳がんについて、具体的に治療の流れを見ていきます。病期はステージ0の段階です。

 一般に、問診や視触診に加え、マンモグラフィー(乳房X線検査)、超音波検査(エコー検査)、造影MRI(磁気共鳴画像装置)検査といった各種画像検査で、乳がんが疑われる所見があると、病理診断を行い、がんかどうかを判断します。

 がん化が疑われる組織の一部から、針などを用いて採取した検体を顕微鏡で調べ(病理検査)、非浸潤がんの診断が下されると、乳腺に対する手術が行われます。

 非浸潤性乳管がん、非浸潤性小葉がんにおいては、がん細胞は乳管内や小葉内のみに存在し、広がっています。切除範囲はがんの進展範囲に応じて決まります。

 ただし、手術前の病理検査では、組織のごく一部しか調べられません。乳管や小葉の外へと本当に浸潤していないかどうかは、手術した組織を詳細に調べて初めて分かります。

 ですから、治療方針を決める際には、視触診や各種画像検査の結果に基づき、浸潤の可能性や切除範囲を綿密に検討する必要があります。

 ◇温存手術は放射線療法と組み合わせて

 非浸潤がんであれば、乳腺に対する手術で完全に腫瘍部分を切除できれば治癒します。この場合は、腫瘍部分を中心とした乳房の部分切除(乳房温存手術)でも、乳房全体の切除(乳房全切除術)でも、再発リスクや生存率などの予後は変わりません。

 それでも温存手術の場合は、乳房の部分切除後も残った乳腺にまた、新たに乳がんができる可能性はゼロではありません。このため、通常、残った乳腺に対する放射線照射を、手術と組み合わせて行います(乳房温存療法)。

 手術の方法自体は、病変の大きさと乳房の大きさの比率、位置などの関係を総合的に考慮して決められます。乳房温存を強く望むかどうかという患者自身の希望に加え、患者が放射線治療に通えるかどうかといった要因も、方法の選択に反映されます。

 手術に際して、浸潤がんである可能性が排除できない場合は、リンパ節転移の有無を調べるためにサンプルを取って検査するなどの操作(センチネルリンパ節生検)も、手術と同時に行います。非浸潤がんであれば転移はないので、そうした必要はありません。

 浸潤がんの治療については、センチネルリンパ節生検と合わせて次回に詳しく説明しますが、乳腺の手術に関して乳房温存手術とするか、乳房全切除術とするかの選択は、非浸潤がんの場合と同様に考慮して決められます。(東京慈恵会医科大学附属葛飾医療センター外科・川瀬和美)


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