こちら診察室 介護の「今」

「病院には戻りたくない」 第8回

 ◇一時的な避難のはずが

 Cさん(50代男性)は19歳で統合失調症を発症した。母親を亡くし、父親と二人で暮らしていたが、父親が認知症になった。

 その結果、Cさんの世話をする家族がいなくなり、「入院」という緊急避難を選ぶことになる。ところが、一時的な緊急避難のはずが、入院生活は4年以上も続き、1年前にようやくアパートでの一人暮らしが実現した。

 現在は、デイケアと就労支援B型に通い、ホームヘルパーと訪問看護を利用する。就労継続支援B型とは、同A型のような雇用契約に基づく就労が難しい人に対して就労の場を提供するサービスだ。A型は最低賃金以上の賃金を受け取ることができるが、B型は授産所的な位置付けで、月の給与は1万円前後の所が多い。

 Aさんは訪問するたびに「他に必要なことはありますか?」と、Cさんに声を掛ける。

 ◇地域で暮らす条件

 Dさん(50代男性)は統合失調症だ。入院は10年に及んだ。現在はグループホームで、4人の仲間たちと暮らす。生活訓練の事業所に通いながら、余暇はFMラジオを聴いて過ごしている。東北の出身で、福田こうへいの「南部蝉しぐれ」を歌い、カラオケ大会で優勝したこともある。

 「自分の病名を他人に言えるようになる。それが地域での暮らしに踏み切ることの条件の一つだと思います」

 そう語るAさんは、一人で生きることに難しさを抱えた人々の「病院には戻りたくない」という心の叫びに応え続けている。(了)

 佐賀由彦(さが・よしひこ)
 1954年大分県別府市生まれ。早稲田大学社会科学部卒業。フリーライター・映像クリエーター。主に、医療・介護専門誌や単行本の編集・執筆、研修用映像の脚本・演出・プロデュースを行ってきた。全国の医療・介護の現場を回り、インタビューを重ねながら、当事者たちの喜びや苦悩を含めた医療や介護の生々しい現状とあるべき姿を文章や映像でつづり続けている。中でも自宅で暮らす要介護高齢者と、それを支える人たちのインタビューは1000人を超える。

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