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あなたに合う眼内レンズは?
~白内障手術でやって良い・悪いこと~ 【第7回】

適切なレンズを選べば、術後の生活は快適に(イメージ画像)
(3)強い近視
子供の頃から眼鏡やコンタクトを利用してきた方がほとんどだとみられます。医師からは「もともと近視が強いのだから、手術後も近くが見えるようにして、遠くは眼鏡を使うように」と言われてしまいがちです。
でも考えてみてください。アナログからデジタルへ、本も書類も全てが移行していく中で、50センチより手前が見えることにどれほどのメリットがあるでしょうか。裸眼で裁縫をしたり、細かい文字を見たりする必要があるでしょうか。家事や食事、風呂といった日常の多くの場面で眼鏡が要らない生活は快適ではないでしょうか。術後の焦点距離は自由に選んで問題ありません。強度近視の方ほど白内障手術の恩恵を大きく感じられるはずです。
繰り返しになりますが、もともと近視だから近視を残さなければならないという考え方はもったいない選択になりやすいので注意してください。ただし、次回以降で取り上げる屈折精度を考慮すると、裸眼で車を運転したいというところまで遠くが見えるように設定してしまうと、1メートル以内がすべてぼやける遠視になってしまうことがあります。遠くを見たいといっても、焦点距離は軽い近視が残る1~2メートル程度に設定するのが無難です。
(4)左右で眼鏡の度数異なる
片方の目は裸眼で遠くが見え、もう一方は近くが見えているので眼鏡は不要という方と、両眼とも近視だが片方は軽く、片方は強度で、コンタクトレンズを使用するという方に大別されます。
前者は先ほど話したモノビジョンの状態です。もともとモノビジョンの方はその生活に慣れているので、基本的には片方の目の焦点距離を遠方に、もう一方を40センチ~1メートルの範囲に設定すればよいでしょう。後者の場合は右目を2メートル、左目を70センチとするような、少しだけ設定を調整して遠方視力を向上させる方法もリスクの少ない選択肢となります。見たい距離を十分考慮して決定しましょう。
(5)眼鏡使わず
この場合の設定が一番難しいと感じます。裸眼視力が不十分なのに眼鏡をしていない場合と、遠近ともおおむね良好な視力を持続している場合があります。
前者は読書やスマホ使用の機会が少なかったり、テレビのテロップや字幕をしっかり見ていなかったり、運転をしていなかったりという方に多い印象があります。手術前の生活状況を尋ねても、参考にできるエピソードがない場合も多く、基本的には年齢と手術後の生活を考えた設定をすればよいでしょう。
視力が良好な方は基本的には焦点距離を遠方に設定します。その場合、近くの視力が手術前よりも下がってしまうこともあるので、事前にその旨をしっかり伝えるようにしています。

老視矯正レンズは特有の性質を踏まえた選択を(イメージ画像)
◇老視矯正レンズはバランス考慮を
老視矯正レンズの目的は眼鏡への依存度を最大限減少させることですが、近くの見えやすさと遠景のコントラストは基本的に逆相関の関係にあります。自身のライフスタイルに照らし、両者のバランスを十分に考えて選択してください。
アナログからデジタルへの移行やデジタルデバイスの大型化など、私たちの生活は目に優しい方向へ変化を遂げていきそうです。そういった変化も視野に入れたレンズ選択が必要だと考えています。(了)

渡邊敬三院長
渡邊敬三(わたなべ・けいぞう)
近畿大学医学部を卒業後、同眼科学教室に入局し、大阪府和泉市の府中病院(現府中アイセンター)に勤務。オーストラリア・シドニーでの研究留学などを経て、帰国後は同大学病院眼科で医学部講師として、白内障外来および角膜・ドライアイ外来を担当する。2016年に大阪府熊取町の南大阪アイクリニック院長に就き、多数の白内障手術を手掛けている。
診療の傍ら、オウンドメディア「白内障LAB」やYOUTUBEチャンネルで白内障や白内障手術の情報を発信している。
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(2025/05/13 05:00)
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