檜垣實男 医師 (ひがきじつお)

愛媛大学医学部附属病院

愛媛県東温市志津川454

  • 高血圧内科
  • 愛媛大学大学院病態情報内科学(循環器・呼吸器・腎高血圧内科)教授

循環器科 呼吸器科 内科

専門

内科、循環器、腎臓、老年医学、特に循環器病、高血圧治療

檜垣實男

高血圧治療において名高い。診療体制の充実と活性化に尽力する一方、腎臓・高血圧内科での診療と同大学大学院循環器・呼吸器・腎高血圧内科学の教授として後進の指導に力を注ぐ。高血圧治療のスペシャリストでRAS研究でも著名。心・脳血管疾患発症の予防及び臓器保護を目的として、合剤も含めた最も有効な降圧薬の選択、目標血圧値の設定など厳格な降圧療法の重要性を説く。
「塩を減らそうプロジェクト」の顧問も務め、減塩の啓蒙活動にも積極的に取り組む。遺伝子まで含めた分子レベルで高血圧の機序を解明し、分子病態に応じた新治療法の開発をライフワークとする。

診療内容

檜垣實男医師が教授を務める愛媛大学大学院循環器・呼吸器・腎高血圧内科学では、循環器・呼吸器・腎臓・高血圧分野の疾患を担当し、それぞれ担当医師が循環器グループ、呼吸器グループ、腎・高血圧グループに分かれ、診療と基礎研究を行っている。檜垣医師は「我が国の主要な死亡原因である心臓病、動脈硬化、肺がん、肺炎、腎臓病、そして高血圧を守備範囲に持つ私たちの責任は重大である」として自ら診療に取り組むと同時に、同科に集まる若者たちへの指導にも力を入る。
檜垣医師の担当する腎・高血圧グループではまず二次性高血圧疾患(特定の原因があって高血圧を示す状態)であるかどうかの検査を行う。二次性高血圧では血圧上昇ホルモンが過剰に分泌されて起こるほか、腫瘍によるもの(アルドステロン症、クッシング症候群、褐色細胞腫など)や動脈硬化や線維筋性異形成や閉塞、大動脈炎など血管の狭小化に起因するものがある。腫瘍や血管の狭小化が原因の場合は外科的治療で血圧が低下するので最初に内分泌学的検査や画像検査などでしっかりと検査し、その結果、二次性高血圧が除外されれば、本態性高血圧と診断される。
本態性高血圧は原因が不明で、その発症には遺伝因子と環境因子とが半々で関係すると考えられている。本態性高血圧と診断されたあとは、高血圧による臓器障害(脳、腎臓、心臓、網膜、血管など)の状態、他の生活習慣病をはじめとする合併症がどの程度あるのかを評価し、それぞれの患者に適した降圧目標値を設定し、最も有効な降圧薬を処方するなどきめ細かに対応している。
檜垣医師が専門分野とする高血圧疾患は高脂血症、糖尿病とともに三大生活習慣病といわれ、その中でも最も患者数が多く、現在その患者数は4,000万人といわれる。ちなみにメタボリックシンドロームの患者数は2,400万人、糖尿病は820万人、脂質異常症は2,200万人、慢性腎臓病(CKD)は1,900万人といわれている。
日本人の死因の2位と3位と占める心疾患と脳血管疾患は循環器病といわれ、その大きな要因に高血圧があげられる。日本人の死因を考えるとき、その背景には高血圧をはじめとする生活習慣病の蔓延があげられる。こうした生活習慣病は“沈黙の病(silent disease)”といわれ、自覚症状がないのが特徴で、治療しないままでいると重篤な疾患を招いてしまう危険性が高い。高血圧を放置すると血管に負担がかかり、動脈硬化が進行することで脳、心臓、腎臓など動脈硬化に弱い臓器がダメージを受けて脳卒中、心不全、腎不全などの疾患を招き、死亡に至る場合もある。高血圧は動脈硬化の最も強力な因子の一つである。また、高血圧患者の6割に糖代謝異常が見られ、最近は脂質異常症の合併やメタボリックシンドロームの合併のほか、慢性腎病(CKD)を合併する患者が増加していることもさらに事態を深刻化させている。
高血圧患者で自分が高血圧であることを知っている人が1/2、そのうち治療を受けている人が1/2、さらに十分に降圧されている人が1/2といわれ、しっかりと降圧治療を受けている人は高血圧患者の1/8しかいないともいわれている。高血圧を治療しないでいることは地雷原をなんの手立てもなく歩くようなものであり、そこに橋を渡すなどして地雷を回避する手段を講じていくのが治療である。どちらの道を選ぶべきかは明白だといえる。
高血圧をはじめとする生活習慣病は早期発見をして早期治療することが重要である。とくに中年以降は血圧の自己管理を徹底し、家庭での朝晩の測定を習慣づけることが望ましい。
そもそも高血圧とは体内の水分と食塩のバランス異常のことで、食塩の過剰摂取が高血圧発症の大きな要因となっている。つまり、必要以上の食塩摂取で水ぶくれの状態が続くと血圧が上がり、自然には下がらなくなるのが高血圧である。こうした高血圧には塩分と水分を体内に保持するための「レニン・アンジオテンシン系(RAS)」といわれる一連のホルモンの異常分泌が起きている。
人類の祖先が太古、海から陸上に上がってきたときに、このホルモン系の働きにより海水を体内に血液と化して封じ込めることで、外から食塩を取らなくても生きていける仕組みを身につけた。しかし、現代人のように陸上の環境に完全に適応し、食塩をふんだんに取るような生活に変わると、レニン・アンジオテンシン系の調節機能が低下し、食塩が身体に蓄積するにつれ、血圧も上昇するようになってしまった。また、遺伝的に調節機能が低下しやすい人もいる。
本態性高血圧の遺伝子解析は、近年大きく進展し、高血圧に関係する遺伝子として20数種類の遺伝子がみつかっている。その中でも、AGT(アンジオテンシノーゲル)遺伝子のT235多型と呼ぶ遺伝子が、レニン・アンジオテンシン系のホルモン分泌を必要以上に増やしてしまう作用があることがわかった。そのために体内に塩分と水分がたまり過ぎて血圧が上がりやすくなる。
また、日本人の遺伝子解析を行ったところ、食塩感受性が高い(食塩に敏感に反応する)タイプと、そうでない普通のタイプの2通りがあり、日本人の遺伝子の81%が食塩に敏感なタイプであり、白人の45%に比べてはるかに食塩感受性に富んでいることがわかった。従って、高血圧の改善には減塩が重要であることがわかる。高血圧の診断基準は最高血圧が140㎜Hg以上、または最低血圧が90㎜Hg以上とされている。診察時の血圧が正常でも、家庭で血圧が高い場合は仮面高血圧という。とくに早朝高血圧といって起床時の血圧が高い場合には要注意である。心筋梗塞や脳梗塞は午前中に発症することが多いからだ。診察時に正常値であれば、見逃されやすいが、そのリスクは持続型高血圧と同等という。従って、家庭に血圧計を備えて朝晩測定を行って血圧を自己管理することも大切である。なお、家で測る場合はリラックスしているため、正常血圧値は五㎜Hgほど低く設定され、135㎜Hg/85㎜Hgとされている。
治療は減塩と運動療法が基本である。運動は交感神経の活性をなだめて血圧を低下させ、腎臓で尿を増やすドーパミンというホルモンを増やして食塩を排出しやすくする。そのほか、動脈硬化の危険因子である喫煙もやめて禁煙した方がよい。減塩や運動などを行っても血圧が正常にならない場合は降圧剤を用いた薬物療法を併用する。
最近の高血圧治療は大きく変化しており、2009年春に改訂された「高血圧治療ガイドライン(JSH2009)」にもそれが示されている。メタボリックシンドロームや慢性腎臓病(CKD)などによるリスク層別化がなされ、それぞれのリスク別に明確な治療指針が示されているほか、臓器保護のために降圧目標までしっかりと血圧を下げるとする厳格な降圧療法の重要性などが強調されている。
日本における第1選択の降圧薬としては、カルシウム拮抗薬、ARB(アンジオテンシン1受容体ブロッカー)、ACE阻害薬(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)、利尿薬、β遮断薬がある。
薬物療法では降圧効果だけではなく、臓器保護の観点からも最も有効な薬を選択する。というのは従来はどの薬剤を用いても、降圧さえできれば臓器保護効果は同程度であるとされてきたが、最近の大規模臨床試験の結果などから、降圧作用とは別に臓器保護作用を持つ降圧薬があるということが明らかになってきたからだ。たとえば、Ca拮抗薬は抗酸化作用を介して動脈硬化を抑制している可能性があり、ACB阻害薬やARBなどのレニン・アンジオテンシン系抑制薬は、降圧作用だけでなく臓器保護作用があることも明確にわかってきた。
肥満によって増加した内臓脂肪からは動脈硬化を促進する悪玉ホルモンが放出される一方で動脈硬化を抑える善玉ホルモンが減少することが明らかになっているが、ARBを投与すると善玉が増加し、悪玉が減少して体内の代謝が改善されることも示されている。
檜垣医師は「ごく初期で合併症がない状況であれば、どの降圧薬から始めてもよいと思うが、ARBはインスリン抵抗性を改善することで新規の糖尿病の発症を抑制するという予防的な作用が示唆されているので、早い段階からARBを使用してもよいのではないか」と考えている。臓器障害や糖尿病などの生活習慣病を合併している場合はARBが第一選択でよいとしている。
また、単剤では降圧が不十分な場合は、カルシウム拮抗薬や利尿薬との併用が必要となる。その際、配合剤の使用による工夫も有用と檜垣医師はいう。配合剤(合剤)とは2種類の薬剤を配合したもので、ARB/Ca拮抗薬、ARB/利尿薬がある。
降圧目標を達成するために、降圧薬開始時の血圧が高めであるほど多剤併用が必要であることが、大規模臨床試験の結果からもわかってきた。ARB/Ca拮抗薬の合剤は血圧が非常に高い場合には十分に降圧し、それほど高くない場合は適度に降圧するというように血圧値に応じた降圧効果が発揮されるなど安全性も確認されている。
檜垣医師は「配合剤は1錠で高血圧を的確に管理できるメリットがある」とし「患者側からも薬剤に対する信頼度が高まり、薬が増えていくことへの心理的な抵抗も少ないので治療が継続されやすい。単剤では降圧効果が得られないという場合の次のステップとして配合剤の処方は非常に有効である」としている。配合剤は治療効果だけでなく患者に安心感をもたらし、服用を継続させる効果ももたらすといえる。また、高齢化が進む中で、高齢者の高血圧患者も増えており、そうした患者に対応した治療法の確立が急がれる。高齢者の場合は動脈硬化が進んでいたり、臓器予備能が低下するなどの病態を踏まえた降圧治療が必要とされるが、檜垣医師は高齢者であっても、血圧値と脳梗塞や心筋梗塞などの発症のリスクは相関しているため、十分な降圧治療が必要であることには変わりはないとしている。急激な降圧に注意しながら、140/90㎜Hg未満を降圧目標とすることを提唱している。
減塩については「高血圧治療ガイドライン(JSH2009)」や世界保健機構(WHO)ともに1日の摂取量は6g未満を推奨している。しかし、現状では日本人の成人男子で11.9g、女性は10.1g(2008年の国民栄養調査による)とかなり上回っている。戦後の秋田県での調査結果の25gの半分以下に減ったとはいえ、まだまだ多く、日本人の食塩摂取量は世界一である。男女差は食事量の違いで、塩味を好む点では変わりはない。
推奨される6g/日は小さじ1杯程度で、醤油に換算すると大さじ2杯くらい、味噌では大さじ3杯弱である。
減塩は個人の努力だけでなく、社会全体の取り組みが必要であるとし、檜垣医師自身は「塩を減らそうプロジェクト」の顧問として啓蒙活動にも積極的に取り組んでいる。このプロジェクトは高血圧治療の基本は「一に減塩、二に運動、三に薬物治療」であるとし、塩の摂取を減らすとともに、運動などで塩を体外に排出することで体内減塩化を測ることの重要性を啓発するために2010年に1月に発足した。

医師プロフィール

1953年4月 愛媛県生まれ
1978年3月 大阪大学医学部 卒業
1979年6月 筑波大学応用生物化学系研究生
1981年1月 米国クリーブランドクリニック研究員
1998年7月 大阪大学加齢医学助教授
2002年5月 愛媛大学医学部附属第二内科教授
2006年4月 愛媛大学大学院病態情報内科学教授、愛媛大学医学部附属病院副院長(企画経営担当)
2008年4月 愛媛大学医学部附属病院副院長(企画総務担当)
2009年4月 睡眠医学寄付講座教授(兼任)
2012年4月 愛媛大学医学部附属病院 院長

「高血圧」を専門とする医師