廣部誠一 医師 (ひろべせいいち)

東京都立小児総合医療センター

東京都府中市武蔵台2-8-29

  • 外科
  • 副院長

小児外科 外科 形成外科

専門

小児外科全般、新生児外科、肺・気管の外科、鎖肛・排便障害の治療、内視鏡手術、小児救急(外傷の治療)

廣部誠一

小児外科疾患に関する症例・治療法・医療のあり方などについての論文や学会発表のほか、親を対象にした講演なども多数行う。診療の場面では、それぞれの両親としっかりとした連携をとることで子どもごとに異なる問題点や悩みに対応するとともに、心と体の成長発達を配慮した医療を心がける。日本小児外科学会理事として、小児外科医療の発展に努力している。特に、保険診療、男女共同参画、労働環境の改善を担当している。

診療内容

廣部医師が診療科責任者を務める小児総合医療センター外科では、頭からつま先までの幅広い外科治療を行っており、なかでも呼吸器と消化器の病気が中心だという。この欄では、症例が多いものや緊急を要する症例の治療法を紹介してゆく。
【先天性気管狭窄症】…症状が軽く、手術せずに経過観察した症例では、成長とともに気管内径が拡大し5~6歳ごろには症状が改善する場合もある。手術成績が向上したとはいえ、まだリスクのある手術であるため、手術するか否かは慎重に判断する必要がある。一方、感冒などによって急速に呼吸困難が進行する場合もあり、専門施設と連携して経過観察していく必要がある。なお、手術の判断基準は原則として以下のとおり。
●気管狭窄率40%以下(乳児で2mm 前後の気管内径):窒息のリスクが高く、早期の手術が必要
●気管狭窄率60%以上(乳児では3mm 以上):手術せず保存的に観察できる症例が多いと考える
●気管狭窄率40~60%:保存的に観察しながら、症状により最終判断する
手術は「スライド式気管形成術」で行う。これは気管狭窄範囲の中央を離断して、上部気管の後壁と下部気管の前壁を縦切開し、両者をスライドさせ重積し吻合するもの。この方法で行うことで吻合部の緊張が軽減し、縫合不全や肉芽形成の合併症が減少するメリットがある。さらに、気管分岐部に至る気管狭窄に対しては、気管分岐部の逆Y 字切開による形成を開発・施行。従来式よりも内腔の拡大効果が認められている。なお、気管形成中は人工心肺で換気の補助を行う。
【声門下狭窄】…気管支鏡により、狭窄部とその程度を診断。手術を行う場合は、まず「anterior cricoid sprit」の術法を。この方法は輪状軟骨を中心とした声門下腔前面を縦切開し、太めの挿管チューブを留置して閉創するもの。声門下が開大した状態で創傷治癒・上皮化が進み、内腔の拡大が得られる。この方法で内腔拡大が不十分な場合には、「軟骨移植術」を考慮する。これは上記の手術で開いた間隙に軟骨を移植して、内腔の拡大を図るというもの。その際は、甲状軟骨を使用している。
【漏斗胸】…レントゲンやCT などの検査で「どのくらい胸の中央がへこんでいるか」「心臓や肺の圧迫具合はどうか」を確認。くぼみは乳児期に始まることが多いものの、その後は変形が進行する場合と、不変・改善する場合があり、必ずしも進行性の病変ではない。そのため、陥没の進行具合を半年間隔で定期的にフォローアップすることが大切となる。くぼみが高度で肺や心臓に影響をきたす場合は、手術の対象となる。症状がないものの精神発育に影響する場合も、家族の希望を考慮して手術適応を判断。手術の時期は、肋骨や肋軟骨が柔軟である6歳前後が適している。手術は「胸腔鏡下Nuss法」という侵襲が軽度な方法で施行。くぼんでいる胸骨の内側に金属製の棒を入れ、裏側から胸骨を持ち上げて矯正する。傷は左右それぞれ約2cm以下で、手術跡が目立ちにくいという美容的な利点も。入院期間は約1~2週間。金属製の棒は2年間の挿入後、再び全身麻酔下で抜去する。
【嚢胞性肺疾患】…そのままにしておくと嚢胞自体が肺を圧迫して呼吸機能や肺の発育を障害したり、肺炎を繰り返して肺が十分に成長しなかったり傷んでしまう可能性がある。まれに悪性化することも報告されているため、きちんと診断を行い、適切な時期に手術を行う必要がある。タイミングについては「安全かつ肺の成長を妨げない1歳前後」というのが、広部医師および同センターの見解。小児呼吸器科の専門医や放射線科専門医と連携し、嚢胞の部位や広がりをきちんと診断をして、適切な外科治療を行う。手術は全身麻酔のもと、安全な胸腔鏡補助下で約2 時間程度で終わる。傷は脇の下に5cm程度と小さく、正面からではほとんど分からないほど。入院期間は約1 週間。
【自然気胸】…レントゲンや胸部CT検査で診断し、酸素療法や胸腔ドレナージで治療を開始。7日以上空気の漏れが続く場合や、再発性気胸の場合には、外科的手術を行う。全身麻酔下で脇の下に5~10mmの小さな穴を3ヵ所に開け、胸腔鏡下で病変の切除を行う。時間にして約1 時間、小さな傷での手術なので術後の負担も少なく、術後3~4日で退院が可能となる。
【肥厚性幽門狭窄症】…診断は触診により厚くなった幽門筋を確認した後、超音波検査で幽門筋の厚さや長さを計測。検査中に糖水を飲ませて、幽門筋を通過するかを確認することもある。それでも判断が難しい場合には造影検査をすることもあるが、多くの場合には超音波検査で診断ができる。ミルクが飲めずに嘔吐が続く状態の場合、脱水症状になっていることが多いため、入院してまずは点滴治療(輸液)を行う。脱水が改善されたのちに厚くなった幽門筋を切開して広げ、胃から十二指腸への通り道を広くする幽門筋切開術を行う。手術は腹腔鏡によるものなので、身体に与える侵襲や痛みが少なく、傷も小さくて目立たない。手術後は1週間以内に退院可能。なお、手術を行わず硫酸アトロピンの内服や注射による治療を行うケースもあるが、治療や入院期間が長引いたり効果が不確実であるなどの理由から、基本的に手術を勧めている。
【鎖肛(直腸肛門奇形)】…会陰部の外観で診断が可能。生後12 時間を経過すると飲み込んだ空気は直腸に到達するので、倒立位でレントゲン写真を撮影。空気が到達した直腸盲端の位置と臀部皮膚の距離から「定位型」「中間位」「高位型」と判断し、人工肛門の適応を決定する。肛門形成術前には膀胱・直腸造影で直腸尿道瘻の有無など正確な病型を診断し、骨盤CT検査で肛門括約筋の分布を確認してから手術に備える。低位型の場合は、外瘻孔をブジーし浣腸で排便管理して、新生児期から乳児期に肛門形成術を行う。中間位・高位型では人工肛門を造設して体重増加をはかり、乳児期に根治手術を行う。なお、高位ほど肛門括約筋は低形成であるため、手術ではその筋肉を最大限に利用する手術を目指す。術後は数ヵ月の期間をおき、肛門拡張が十分になったら人工肛門を閉鎖。人工肛門閉鎖後は、浣腸による失禁防止の管理と排便訓練を行う。
【ヒルシュスプルング病】…「注腸造影(おしりから大腸を造影し、細くて動きの悪い腸とその範囲を確認)」「直腸肛門内圧検査(おしりの締め具合を測り、正常であれば肛門括約筋に直腸肛門反射を調べる)」「直腸粘膜生検(直腸粘膜を2mmほど取り、神経の異常を顕微鏡で確認)」などの検査で正確に症状を診断。治療では洗腸などによる排便コントロールを行うが、病変の範囲が長く洗腸が有効でない場合は、一時的な人工肛門が必要となる。手術は乳児期に行う。神経節細胞のない腸を切り取り、神経節細胞のある口側の正常の腸を引き降ろして肛門とつなげる。腹腔鏡補助下、直腸脱転Soave-伝田法を工夫しての手術なので、傷はほとんど残らず、手術成績も良好である。手術後は排便訓練のために浣腸を利用。定期的に浣腸し、排便習慣や便意の獲得を目指して訓練していく。排便機能は成長とともに改善していくものなので、便意を感じて自排便できるようになるに従い、浣腸の回数を減らしてゆく(学童期では多くが正常児に近い排便生活を送ることができる)。なお、油断すると便秘傾向になることがあるため、長期にわたって外来での経過観察が必要となる。
【二分脊椎症など脊髄神経障害による排便障害】…二分脊椎症での排便管理の目的は、浣腸で便を完全排泄させ、失禁を減らすことである。そのため、まずは年齢に応じて「グリセリン浣腸」か「洗腸療法」のいずれかをとる。「グリセリン浣腸」は幼児期に行うもの。毎日定時に浣腸を行い、まとまった排泄をさせて失禁を防止する。その際は肛門括約筋がゆるんで浣腸液が漏れやすいため、肛門ストッパーを利用する。「洗腸療法」は上記より強力な矯正排便法で、10歳ごろを目安に行う。洗腸により90%のケースで便漏れのためのオムツが必要でなくなり、便漏れの不安のない生活が可能となる。方法は人肌程度に温めた水道水500~1000mlを肛門から注入して盲腸付近まで到達させ、結腸全体の便を泥状にして一気に排泄させる。施行頻度は2 日に1回ほどで1回の洗腸に30 分程度かかる。なお、治療の際は「自分には排泄の問題があるが、排便管理をすれば学校生活でも困らない」という意識を向上させることが必要。徐々に自立を促すよう、自分で処置できるように指導してゆく。下半身麻痺などの身体的理由などから洗腸操作をひとりでできない患者に対しては「順行性禁制洗腸法(MACE 法)」を行う。これは虫垂の先端を臍部に縫合し、そこにつくったストーマ(排泄口)からカテーテルを入れて洗腸するというもの。腹腔鏡での手術であるため臍以外にほとんど傷はつかず、ストーマの位置も臍部なので目立たない。MACE 法であれば、下肢麻痺などがあっても自分ひとりでストーマにカテーテルを入れて洗腸でき、洗腸管理が自立できる。さらに洗腸方向が順行性なので、効率良く宿便を洗い出せるという利点も。一方で、臍部ストーマの狭窄が起きる場合があるという欠点もある。同センターでは、MACE法患者全例において自分ひとりでの浣腸が可能になったという。さらに、洗腸管理の自立により、社会生活も活発になる傾向が見られたとのこと。
【虫垂炎】…患者への負担軽減のため、学所見と超音波所見を繰り返す。超音波だけでは診断が難しい症例に関しては、CT 検査を施行する。炎症が軽度で自然治癒の可能性がある場合、短期入院で経過観察し、自然治癒を目指す(この段階で手術を行う病院も多いが、同センターの治療データでは手術せずに治る虫垂炎が比較的たくさんあることがわかったという)。炎症が中等度以上で自然な治癒が難しい場合、炎症が進行して臓器が壊死して孔があいてしまうのを防ぐため、虫垂炎切除の手術を行う。さらに、虫垂が穿孔して膿瘍・腫瘤を形成している場合は、合併症を防ぐために強い抗生剤で炎症や膿を抑え込み、3ヵ月後に手術を行う。「傷が小さい」「痛みが少ない」「術後の回復が早く入院日数が短くて済む」といった理由から、手術は腹腔鏡を用いて施行。手術時間は中等度の場合で約1 時間、入院期間はおよそ1 週間である。
【胆道閉鎖症】…診断ではまず血液検査・超音波検査・胆道シンチグラムを行うが、これだけでは確定診断がつかないことが多く、胆道閉鎖症が疑わしい場合には開腹して胆道造影を行い、胆道が通っているかを確かめる。胆道閉鎖症と診断がつけば、そのまま胆汁流出路を作る手術へと移行。手術では 閉塞して瘢痕となった胆管組織を切除し、肝臓側の断端を腸管で被うように肝臓そのものと腸管とを吻合する。なお、術後徐々に肝硬変が進行してくる場合もあるため、定期的な通院・検査が必要となる。
【先天性胆道拡張症】…診断が確定した際は、手術的な治療が必要。標準的な手術は、拡張胆管切除および肝管空腸吻合術(分流手術)。腹腔鏡を用いて右上腹部に約3~4cm程度の小さな傷で済むように行っている。術後の回復も早く、約1週間で退院が可能。
【鼠径ヘルニア・陰嚢水腫】…鼠径ヘルニアでヘルニア嚢が自然閉鎖する可能性は低いため、カントンが起きる前に治療をしておく方が安全。通常は全身状態が安定する生後5~6ヵ月以降に手術を行うが、戻りにくい場合は早期に行う。一方、陰嚢水腫は自然に治る可能性もあるため、3歳頃までは経過を観察し、治らなければ手術を考慮する。鼠径ヘルニア・陰嚢水腫ともに手術時間は10分程度(男児ではヘルニア嚢に付着している精管と血管を剥離するので、女児より少し時間がかかる)。基礎疾患(先天性心疾患・喘息などの呼吸器疾患・神経疾患など)のない患者に対しては、日帰り手術を推進している。麻酔は全身麻酔。通常はマスクを用いた吸入麻酔だが、手術時間が長くなるときは、気管の中に管を入れることもある。手術では皮膚を1.5~2cmほど切開し、ヘルニア嚢を横断して根本で結紮。傷は吸収糸で埋没縫合するため、抜糸は不要である。ちなみに腹腔鏡手術の場合、傷は3mm前後と小さいが腹膜にキズが付く欠点もあるので、保護者が納得したうえで希望する場合のみ行っている。術後1 週間後には、一度受診を。退院後から入浴、通園・通学は可能だが、運動や体育は1 週間後の外来受診まで控えること。さらに、腹圧のかかる運動は術後3 週間を過ぎるまで控える。なお、手術側の再発は0.1%だが、後から反対側に発症する可能性は10%ある。また、後から精巣が挙上することがあるため、男児のみ術後3ヵ月後に1回検診をする。
【臍ヘルニア(でべそ)】…臍ヘルニアの大きさに合わせてガーゼを丸めて球をつくり、臍上から突出部を押し込むイメージで乗せ、テープで固定・圧迫。圧迫することで治癒が早くなる。外来で圧迫のやり方を説明するので、自宅で実践を(テープかぶれがひどい場合はあえて続ける必要はない)。それでもふさがりきらない場合や、腹膜の痕跡が残ってへそが前方に突出している場合は、希望に応じて2~3歳児以上に対し手術を行う。手術の目的は「腸管の脱出防止」と「見た目を良くすること」である。「へその形が変だといじめられた」という理由で手術を希望する例が増加しているため、手術ではへその形を良くするための工夫も。大きな臍ヘルニアの場合には、形成外科とタイアップして形の良いへそづくりを目指している。手術時間は30 分程度で、入院期間は1~2日。退院後は熱がなければシャワー・入浴とも可能。1週間後に外来で傷の確認をして、治療は終了となる。なお、臍の周囲に直接力がかかる動き(鉄棒や激しい接触の多いスポーツ)は、術後約3週間は避けること。

医師プロフィール

1983年 慶應大学医学部卒業、慶應大学医学部外科
1984年 東京歯科大学市川総合病院外科
1985年 国立栃木病院外科
1986年 慶應義塾大学外科
1988年 都立清瀬小児病院外科
1990年 米国マサチューセッツ総合病院小児外科研究室
1989年 慶應義塾大学外科
1990年 米国マサチューセッツ総合病院外科研究員
1992年 都立清瀬小児病院外科
1996年 都立清瀬小児病院外科医長
2009年 都立清瀬小児病院外科部長
2010年 都立小児総合医療センター移転
2013年4月 都立小児総合医療センター 副院長