勝川史憲 医師 (かつかわふみのり)

慶應義塾大学病院

東京都新宿区信濃町35

  • スポーツ医学総合センター(運動療法外来 )
  • 教授

リハビリテーション科 内分泌科・糖尿病

専門

内科(内分泌代謝学)、スポーツ医学が専門。とくに若年成人の肥満・メタボリックシンドロームの運動・食事療法による予防

勝川史憲

勝川史憲医師は、若年成人のメタボリック症候群、肥満、耐糖能異常、脂質異常症、高血圧など、生活習慣病に対する食事療法、運動療法が専門。慶應大学病院の外来で、1990年より指導にあたる。肥満の程度がBMI 35程度まで20~40歳代の若年成人の経験が豊富で、時間をかけて予防的対処を行なっている。外食にも対応した独自の栄養指導教材や、食事メニューの開発を手がけ、健康的な食事法を探求する。運動指導は1人ひとりの体力レベルを評価し、個人に合わせた運動指導を行なっている。

診療内容

生後初期の栄養と肥満について
図1は、私の外来を受診された男性患者の、初診時のBMIと年齢をプロットしたものである。5年ほど前に作ったものだが、40歳代半ばを境として、プロフィールが大きく異なることがわかる。
50歳代より上の患者では、高度の肥満が少なく、肥満度が低いのに糖尿病(オレンジ色)や耐糖能異常(IGT;紫色)を高率に合併している。一方、40歳代半ばより下の若年成人では、高度肥満が多いにもかかわらず、糖尿病の合併は少なくなっている。糖尿病はないが、高血圧や脂質異常を高率に合併しており、欧米型のメタボリックシンドロームの状態である。
近年、胎生期~生後初期の栄養が、その後の生活習慣病の発症に大きく影響することが指摘されている。日本人の食生活はこの60年余りで急速に西洋化した。とりわけ、テレビでさまざまな料理番組が始まった1960年代前半以降、食卓の西洋化が進んだと言われている。図1が示すように、それ以降に生まれた世代で肥満のプロフィールが大きく変化していることはたいへん興味深い。食生活の西洋化は、単に肥満の頻度を増すだけでなく、肥満のプロフィールも変えているのだと思う。
厚生労働省の国民健康栄養調査の「やせ」・肥満の頻度の年齢別の変化も見てみる。この調査は、人口や年齢の分布を考慮して抽出した1万5,000人を対象としており、同じ人をずっとフォローアップしたものではないが、各年齢層の肥満や「やせ」の状況の変化がわかる。
まず、女性の「やせ」の頻度(図2右)である。日本人の若い女性では「やせ」が増えている、とよく言われるが、実際には20歳代の女性(赤色)の「やせ」の頻度は1990年代前半まで増加した後、ほぼ横ばい状態が続き、最近5年間でまた増え出しているように見える。30歳代女性(オレンジ色)では、2000年代前半までやせの頻度が増加し、現在は横ばい状態である。そして現在「やせ」の頻度が増加しているのは40歳代の女性(黄色)であることが分かる。年齢が10歳異なる集団の「やせ」の頻度が、ちょうど10年ズレて同じ変化のパターンを示しているのである。
同じ年に生まれた人の集団を「出生コホート」と呼ぶ。上記の「やせ」の頻度の変化のパターンは、生まれ年の異なる各出生コホートの体格の変化によるもので、日本人の食生活の変化を反映した胎生期~生後初期の栄養が影響したものである可能性を考えさせる。同じようなことはデンマークの疫学研究でも指摘されている。すなわち、生まれ年の異なる出生コホート間で、肥満者の頻度が大きく増加するポイントが存在するというのである。ただ、20歳代と30歳代女性の「やせ」の頻度で横ばいになっている部分を比較すると「やせ」の頻度は30歳代の方が少なくなっている。20代で「やせ」に分類された女性の3割は10年間のあいだに体重が増え、30代では「やせ」でなくなっているのである。これは、成人以降の食事や身体活動の影響である。日本人の食生活は過去、急激に変化したので、年齢を区切って観察することで、胎生期~生後初期の栄養の影響と、その後の食事、身体活動の影響を分けて評価できるのではないかと思っている。
男性では、20歳代でこの5年ぐらい「やせ」の頻度が増えているようである(図2左)。女性と同じような変化が20歳代男性に認められており、これを反映してか、20歳代男性の肥満の頻度(図3左)はこの5年あまり横ばいになっている。別のデータで同じ人の経年変化を見ると、若年成人男性の体重増加はきわめて大きく、これから若年成人男性でどのような変化が起きるのか、目が離せない状況である。○○○○○

若年成人肥満・メタボリックシンドローム外来の経緯
私は1990年から、当院の腎臓内分泌代謝内科の金曜午前7番の肥満外来で、運動や食事の指導を行なってきた。武井泉先生(現・東京歯科大学 市川総合病院、糖尿病内分泌センター長・教授)が隣の部屋で糖尿病外来をされていた関係で、私は、糖尿病がなく年齢の若い肥満、メタボリックシンドロームの患者の診療に専念できた。
スポーツ医学総合センターの外来では、内科外来の患者の運動や食事指導を行なってきており、内科外来を他の先生に交代した後も、10代後半から40歳代までの肥満、メタボリックシンドロームの患者の運動や食事の指導を行なっている。

外来患者さんの適応…以上のような経緯であるので、当方の外来の治療に最も適した患者の条件は、以下の3つである。
1)年齢が10代後半から40歳代まで
2)BMIが35まで
3)明らかな糖尿病がない

1)の条件は、従来からの患者の年齢層であり、この年齢層に最も経験があること、また、運動や食事療法の指導が主体なので、体力的に十分な運動がこなせ、食習慣にある程度フレキシビリティが残っている若年成人が良い適応であることが理由である。
2)の条件は、治療の有効性からの設定である。あるとき、私の外来患者のカルテを調べ、5年以上にわたって10%以上の体重減少を維持している方の、初診時のBMIをみたことがある。BMIの最大値は男女とも36台だった。それよりBMIの大きい方も過去にたくさん受診され、大幅な減量を達成された方も多いのだが、いずれも3~5年ぐらいでリバウンドしてしまい、通院からドロップアウトされるか、生活習慣改善の意欲がなくなり内服薬だけの治療となっていた。どの患者にも熱心に生活習慣の改善を勧めてきたので、これが私の治療の限界と考え、最近ではBMI 35以上の初診患者には、以上の経緯をお話ししたうえで、外科治療をお勧めしている。外科療法は、胃にバンドをはめて食べる量を制限する、または、胃を切り縮めて小腸の途中までバイパスさせ食物の吸収も低下させるもので、いずれも開腹せずに腹腔鏡を使って手術する。慣れた先生が行なえば合併症は少なく、10年といった長期の体重維持成績は、食事、運動の効果をはるかにしのいでいる。外科手術の適応はBMI 40以上、またはBMI 35以上で重篤な合併症がある方、とされており、私の治療の実績ともよく合致している。私は、5年も6年も食事、運動のみの治療に付き合わせたうえ、生活習慣改善に無気力になってしまう患者にはなっていただきたくないと思っている。手術によって早期にある程度体重をコントロールし、その上で積極的に生活習慣の改善に取り組んでいただくのが最も良いと考えている。その意味で、当方の外来の食事、運動指導に最もなじむ条件として、BMI 35以下を最近は挙げている。
3)の糖尿病の有無については、詳しい検査をしないと明らかにならない場合がある。しかし、空腹時の採血で明らかな糖尿病の方は、糖尿病外来の受診をお勧めしている。若年成人の肥満者は、インスリン分泌能が高く、高血圧や脂質異常があっても、糖尿病の合併は少ないのが一般的である。もし明らかな糖尿病があるとすると、それは、インスリン分泌予備能が低い糖尿病素因があるものと考えられる。こうした方には、糖尿病外来への通院をお勧めしている。

食事指導…当方の外来では、独自の栄養指導教材を用いて栄養指導を行なっている。この教材は、永年、外来の栄養指導を担当してくださったスポーツ医学研究センター・研究員の山下光雄先生、現在、栄養指導を担当してくださっている千葉県立保健医療大学栄養学科の渡邊智子先生、によって作成、改訂を積み重ねてきたものである。通常、食品の総エネルギー量はkcalで表示されるが、これを構成する三大栄養素(たんぱく質、脂質、糖質)は重量(g)で表示される。このため、三大栄養素のエネルギー比率が分かりにくく、患者さんの食事療法の理解を困難にしている。当方の外来の栄養指導教材は、食品100 kcalに含まれる三大栄養素をエネルギー量で表示している。100 kcalに含まれるエネルギーであり、この数字はエネルギー比率を表わす。また、この教材では食品100 kcalの重量も合わせて表示している。1日に摂取する食品の総重量は比較的一定であることが指摘されている。その重量をいかに少ないエネルギー量で満たすかが、ダイエットを継続させる1つのポイントである。同じエネルギー量でも重量の大きい食品を選択する方が食欲を満たしやすく、ダイエット継続に有効と考えられる。このように、戦略的によく練られた栄養指導の教材になっていると思う。

こうした指導教材の工夫は、栄養面の要求を理解していただくのに非常に役立つ。ただ、「栄養指導は非常に分かりやすかった。ところでその要求を満たすレシピを教えて」という患者も多い。
1960年以降に生まれたお母さんがいる家庭では「食卓崩壊」と言われる状況が起きており、そのまたお母さんの世代(1931~1950年生まれ)から、食事の作り方が素材発想からメニュー発想に変化してきたことが指摘されている(岩村暢子:現代家族の誕生―幻想系家族論の死)。ちょうど、1960年代前半に始まったテレビの料理番組を見て、日本人の食の西洋化を進めてきた世代である。現在行われている栄養指導メソッドのパラダイムは、実はそれ以前の素材発想によるものであり、メニュー発想の患者に適合しなくなっているように思う。高血圧に対する食塩制限など、有効性のエビデンスが確立している食事療法の項目は、病気ごとに数個しかなく、互いに共通したものもある。したがって、それらの条件を満たす健康的な食事は無限に作れそうに思われる。しかし、粗食でなく料理として成立するものは、1000に近い3桁程度にとどまる(これは、数回にわたる食事のエビデンスの集中講義の後に、料理学校でレシピの監修に携っておられる専門家の方が指摘された数字である)。そのうち、3工程程度でできる簡単なレシピの数はもっと少ないと思われる。これらを集大成し、食材の組み合わせ毎に検索できるデータベースを作れば、今日の食事療法はずいぶん簡単になるのでは、と思っている。また、健康レシピの料理法には、たとえば、脂の少ない肉を加熱しても硬くならないようにするための技法など、応用面で重要なものがいくつかある。個々のものは料理をおいしくするための技法として確立しているわけだが、健康レシピの観点から体系化することも重要である。
長く続けるための食事の条件は、私は以下の4つだと思う。
1)おいしい
2)食欲を満たす(少ないエネルギー量で食欲を満たす)
3)簡単に作れる
4)バリエーションが豊富(1つの食品に頼るのはダメ)
外来では、おいしくて健康的な手抜き料理のヒントをお話している。

運動について…肥満やメタボリックシンドロームの運動療法の目標は、まずはエネルギー消費量を増やすことにある。運動の種類、1回の持続時間、1日の中の時間帯、運動の1週あたり頻度、などはとりあえず問題でなく、運動の総量がまずは重要である。十分な運動量が確保できるようになったら、運動強度を上げることを考慮すると、さらに良いかもしれない。肥満やメタボリックシンドロームの運動の要求条件は非常に緩いので、さまざまな運動、スポーツでこれを達成することが可能である。当方の外来では、トレッドミル(ベルトコンベア)や自転車エルゴメータで運動負荷試験を行なっている。運動中の心電図や血圧をモニターすることで、運動の安全性を判定する。この検査は体力測定でもあり、各運動強度での心拍数がわかる。この心拍数をもとに、個別にウォーキングを指導している。中位の強度のウォーキングは、運動療法の導入としては最も一般的である。運動不足の人が、コンディションを改善させる良い方法である。しかし、若年成人では、ウォーキングだけで運動を長続きさせるのは難しいように思う。身体的スキルと運動課題のバランスで、これを説明してみる。3か月くらいウォーキングを続けていると「身体が軽くなった」「階段を楽に昇れるようになった」といった実感が得られる。これは身体的スキルが向上し、能力感(competence)が得られている状態である。一般に、スキルが運動課題とバランスされ、わずかに課題がスキルを上回る状態が、運動を最も楽しく感じられる状況である。しかし、ウォーキングも6か月、1年を過ぎると、身体スキルが運動課題を上回るようになりる。スキル>課題の状態は、退屈をもたらす。こうして、6か月、1年、2年とウォーキングを続けているうちに、しだいに歩く量が減り、ドロップアウトされる方が非常に多いのである。目の前に健康障害があって「面白くはないが大切なことだから」と運動を続ける中高年者と、若年成人は違うように思われる。当方の外来では、ウォーキングで身体づくりをしたあとは、ご自分で好きな種目を見つけることをお勧めしている。運動の継続には、自主性(autonomy)、能力感(competence)、社会的つながり(social relatedness)の3つが重要とされる。最近のランニングブームをこれで説明してみる。走ることは誰でも可能であるが、良いタイムで走ろうと考え出すと、ランニングフォームや練習メニューが気になってくる。自分で調べたり人に訊いたりして、練習方法を選ぶことになる。そこには自主的に自分の行動を決定するというプロセスがある。練習を重ねると大会で記録が向上する。数字の変化だけでなく、日々の練習で、身体が変化してくる、今までできなかったことができるようになる、こうした変化を実感することが能力感につながる。時間やお金を使って作り上げた自分の身体を維持しようとする気持ちが自然に生まれる。さらに、ランニングクラブに入ると、同じ運動を定期的にやっている多くの人を目にする。毎日、同じ時間帯に同じ人が走っている姿を目にするだけでも、自分が運動を続けるモチベーションになる。病院の外来ではウォーキングの指導しかできないわけだが、外来フォローアップの過程では、こうしたことを念頭に運動継続を支援している。

医師プロフィール

1985年 慶應義塾大学医学部 卒業
1985年 慶應義塾大学医学部内科学教室
1992年 慶應義塾スポーツ医学研究センター
2011年 同・教授

「肥満症」を専門とする医師