産後の異常 家庭の医学

■子宮復古不全と子宮出血
 4週間以上たっても悪露(おろ)が血性で量も多いときは、子宮復古不全が疑われます。原因として、胎盤や卵膜の一部が子宮に残っていたり、ここに感染が起こっていたり、子宮の収縮のわるい場合(双胎〈ふたご〉や羊水〈ようすい〉過多症の分娩〈ぶんべん〉後、子宮筋腫合併、授乳しない褥婦〈じょくふ〉など)があります。
 また、頸管(けいかん)や腟(ちつ)の裂傷などから再度出血が起こったりすることもあります。なかなか悪露がなくならないときや出血の多いときは必ず診察を受け、子宮内容の除去や子宮収縮薬、抗菌薬の服用が必要です。

■乳腺炎
 乳首に傷ができ、そこから細菌が入ると化膿(かのう)性の乳腺炎を起こしてしまいます。授乳後も乳汁が残っているとよけいに起こりやすいので、飲ませたあとも、乳房(にゅうぼう)をよくしぼって空にしておくなどの注意が必要です。早いうちなら乳首の傷の手当てをし、抗菌薬などを内服したうえで、乳頭やその周囲を清潔に保ち十分に乳汁をしぼり、そのあと冷湿布し安静にしていれば治ります。
 しかし、ほうっておくと炎症を起こした部分が赤くはれてきて膿がたまり、痛みが強くなり、38℃以上の熱が出ます。そのようなときは切開して排膿(はいのう)することもあります。

■産褥熱
 産後悪露(おろ)が子宮内に停滞していたりすると、子宮の中や腟、外陰部の小さな傷に細菌が繁殖しやすい状態となり、感染を起こしやすくなります。感染はしだいに子宮内から骨盤内や子宮を支える他の組織にひろがり、血液に細菌が入ると敗血症を起こすこともあります。産後2日以上経過してから38℃以上の熱が出たら、産褥熱(さんじょくねつ)の心配があります。
 以前は産後の異常のなかでも母体死亡の原因となりやすく、もっとも恐れられていた病気ですが、現在日本では分娩の際の十分な消毒や、抗菌薬の投与などの医学・医療の発達により、重い産褥熱が起こることはとても少なくなりました。しかし、抗菌薬の効きにくい細菌の出現なども時に起こり安心はできず、その予防や治療にはいまも万全な注意が必要であることに変わりはありません。産後に下腹部が痛んで発熱し、悪露にいやなにおいがあったらすぐ診察を受けましょう。

■膀胱炎、腎盂腎炎
 産褥期には、膀胱(ぼうこう)筋がゆるんで尿がたまりやすく、外陰部が悪露で汚れやすいために、細菌が入り膀胱炎やさらに重症の腎盂腎炎(じんうじんえん)を起こしやすくなります。
 症状は、膀胱炎では排尿の回数が頻繁になり、1回の量が少なく、排尿時や排尿後に痛みがあり、残尿感があります。また尿は血尿や混濁がみられます。腎盂腎炎は悪寒がし、39℃以上の高熱が出やすく、感染した側の腎臓の部分に痛みがあります。
 尿を検査して原因の菌を調べます。安静にし、水分を多くとって細菌を尿といっしょに流し出すようにします。医師の診断を受け、抗菌薬を内服したり、腎盂腎炎では入院点滴が必要となることもあります。

■妊娠高血圧症候群後の高血圧、たんぱく尿の継続
 大部分の妊娠高血圧症候群はお産が終わると、症状が改善し、むくみがとれ血圧も正常になります。しかし、一部の褥婦では1カ月健診をすぎてもたんぱく尿が続いたり、血圧が高いままになることがあります。産後12週を過ぎてもこれらが継続する場合は、妊娠高血圧症候群の後遺症と診断されます。よくなるまで、ひき続き安静と食事療法、降圧薬の内服が必要です。
 原因は、慢性腎炎や高血圧素因が妊娠前には隠されていて、妊娠によってそれらの症状が表面にあらわれたものと考えられています。この場合は次の妊娠にも影響するので、高血圧や腎臓の専門内科医師に継続して診てもらうことが必要になります。

■マタニティブルーと産褥期精神障害
 多くの産婦が産後5~7日目になると、なんとなく気分が落ち込んで、涙が出やすくなったり、育児に自信がなくなったりしますが、これは一過性のものでマタニティブルーと呼ばれています。
 しかし、産後1、2カ月の間に、徐々に元気がなくなり、家事も授乳もやりたくなくなって非常に気分が落ち込んでしまうことがあります。産後うつと呼ばれる精神疾患で、時に重症になることもありますので、早めに医師に相談してください。

(執筆・監修:恩賜財団 母子愛育会総合母子保健センター 愛育病院 名誉院長 安達 知子
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