抗てんかん薬のバルプロ酸は催奇形性が広く認識されており、母親の妊娠中の使用は、児の先天奇形および自閉症を含む神経発達障害のリスク上昇と関連している。一方、父親のバルプロ酸曝露が児に及ぼす影響は不明である。デンマーク・Aarhus UniversityのJakob Christensen氏らは、全国的な医療登録データを用いて両者の関連を検討。父親の精子形成期間中のバルプロ酸使用と児の先天奇形および長期の神経発達障害との関連は認められなかったJAMA Netw Open2024; 7: e2414709)に報告した。(関連記事「出生前曝露がリスクとなる抗てんかん薬は?」)

児の1,336例(0.1%)で、精子形成期間中に父親がバルプロ酸曝露

 最近、英国医薬品医療製品規制庁(MHRA)は、男性の生殖能力と児の神経発達障害のリスクに関する懸念から、55歳未満の男性におけるバルプロ酸の使用に警告を発している。また、欧州医薬品庁(EMA)が北欧の医療登録データを用いて実施した研究では、父親のバルプロ酸曝露は児の神経発達障害リスクに関連していたが、先天奇形には関連していなかった。

 Christensen氏らは、デンマークの医療出生登録から、1997年1月~2017年末に単胎出生した児のうち、母親が妊娠期にバルプロ酸を処方されていた児などを除外した123万5,353例(男児63万4,415例、女児60万938例)を特定。さまざまな全国医療登録を用いて、生後1年以内の先天奇形、1歳以降の神経発達障害、父親のバルプロ酸曝露などのデータを2018年12月31日まで収集した。父親の精子形成期間中のバルプロ酸曝露は、母親の受胎前120日間に1回以上のバルプロ酸処方を受けたものと定義した。1,336例(0.1%)で父親の精子形成期間中のバルプロ酸曝露が特定された。

 ロジスティック回帰分析により、児の性、生年月日、出生時の両親の年齢、両親の精神医学的診断、向精神薬の使用、てんかんの診断、学歴を調整後の先天奇形の相対リスク(aRR)を推定。Cox比例ハザード回帰を用いて、関連する交絡因子を調整後の神経発達障害のハザード比(aHR)を推定した。

主解析、さまざまな感受性解析ともに関連は認められず

 追跡期間中央値は、バルプロ酸曝露群が10.1年(四分位範囲5.1~14.8年)、非曝露群が10.3年(同5.2~15.6年)だった。

 出生後1年以内に計4万3,903児(3.6%)が主要な先天奇形の診断を、追跡期間中に5万1,633児(4.2%)が神経発達障害の診断を受けていた。

 バルプロ酸非曝露群に対する曝露群の主要先天奇形のaRRは0.89(95%CI 0.67~1.18)、神経発達障害のaHRは1.10(同0.88~1.37)、自閉症スペクトラム障害のaHRは0.92(同0.65~1.30)だった。

 結果の頑健性を検討するために、用量反応解析や同胞解析、父親がてんかんを有する児のみでの解析、父親が精子形成期にラモトリギン(実薬対照)を使用した児での解析、陰性対照として精子形成期以前に父親がバルプロ酸を使用した児での解析などを実施したが、いずれにおいてもリスク上昇は認められなかった。

 Christensen氏らは「デンマークの大規模コホート研究において、父親の精子形成期間中のバルプロ酸曝露と、児の先天奇形および自閉症スペクトラム障害を含む神経発達障害のリスクとの間に関連は見られなかった」と結論した。その上で、「今回の結果は、EMAが実施した先行研究の結果と一致しておらず、さらなる研究が必要である」と述べている。

(小路浩史)