結節性痒疹と慢性皮膚瘙痒症は、いずれも原因不明でQOLを著しく低下させる疾患だが、治療選択肢は限られている。米・University of Maryland School of MedicineのShawn G. Kwatra氏らは、日本ではアトピー性皮膚炎に適応のあるJAK1阻害薬アブロシチニブの結節性痒疹および慢性皮膚瘙痒症への有効性と安全性を検討する第Ⅱ相単施設非盲検非ランダム化試験を実施。アブロシチニブ単剤療法は、中等症~重症の結節性痒疹/慢性皮膚瘙痒症に有効で、忍容性も良好だったとの結果をJAMA Dermatol (2024年6月5日オンライン版)に発表した(関連記事:「結節性痒疹、8割が「痒みで日常生活に支障」)。
両疾患の病態にJAK1が関与か
結節性痒疹については、幾つかの研究でIL-13、22、31など特定の炎症性サイトカインの増加が示されている。慢性皮膚瘙痒症患者の一部では、血中好酸球やIgEなどの増加を伴う炎症調節機構の異常が確認されており、両疾患とも病態へのJAK1の関与が示唆されている。
Kwatra氏らは、JAK1の阻害を介した炎症性サイトカインのシグナル伝達抑制、免疫細胞および炎症細胞の活性化抑制などの作用を有するアブロシチニブに着目。結節性痒疹および慢性皮膚瘙痒症に対する有効性と安全性について、第Ⅱ相非盲検臨床試験で検証した。
対象は2021年9月~22年3月に米・Johns Hopkins Hospitalの皮膚科外来を受診した18~80歳で、中等症~重症の結節性痒疹または慢性皮膚瘙痒症患者。結節性痒疹は6カ月以内に皮膚科医により診断され、複数の解剖学的部位に20個以上の病変を有する者、慢性皮膚瘙痒症は身体診察所見、病歴、スクリーニング検査結果から原因が特定できず、複数の解剖学的部位に6週間以上瘙痒を認めた者とし、両疾患ともスクリーニング前1週間の痒み評価スケールPeak Pruritus Numerical Rating Scale(PP-NRS、0~10点の11段階で高スコアほど瘙痒感が強い)の平均点が7点以上とした。
活動性の慢性蕁麻疹(3カ月以内に再燃)、重症の腎、肝、心疾患またはその他の制御不能な全身疾患、活動性の慢性/急性感染症、リンパ増殖性疾患/免疫不全、悪性新生物などの既往例は除外した。
結節性痒疹群10例(平均年齢58.6±13.1歳、女性100%、白人5例、黒人5例、平均PP-NRSスコア9.2±1.0点)と慢性皮膚瘙痒症群10例(同70.7歳、20%、白人10例、8.2±1.2点)を登録。全例にアブロシチニブ200mg/日を12週間経口投与後、16週時に再評価を行った。抗ヒスタミン薬、ステロイド外用薬、全身性瘙痒症治療薬、免疫抑制薬など瘙痒症に影響を及ぼす可能性がある薬剤の休薬期間(4週間)を設け、試験終了まで休薬を継続した。
主要評価項目は12週時における週平均PP-NRSスコアのベースラインからの変化量とし、毎日のPP-NRSスコアを日誌に記録してもらった。副次評価項目は12週時にPP-NRSスコア、習慣睡眠障害評価尺度(SD-NRS)スコアが4点以上低下した患者の割合などとした。
PP-NRSスコアは結節性痒疹で80%、慢性皮膚瘙痒症で54%低下
解析の結果、12週時における平均PP-NRSスコアは結節性痒疹群で2.0±2.4点(ベースラインからの変化率-78.3%、95%CI -118.5~-38.1%、P<0.001)、慢性皮膚瘙痒症群で3.8±4.9点(同-53.7%、-98.8~-8.6%、P=0.01)と、いずれも有意に低下した。事後解析では、2週目からPP-NRSスコアの有意な低下が認められた(結節性痒疹群:9.2±1.0点→5.6±2.8点、変化率-36.7%、P=0.02、慢性皮膚瘙痒症群:8.2±1.2点→4.2±3.6点、同-50.1%、P=0.02)。
副次評価項目の12週時までにPP-NRSスコアが4点以上低下した割合は、結節性痒疹群で80%、慢性瘙痒症群で60%だった。これらをレスポンダーと見なして層別化すると、12週時のPP-NRSスコアは結節性痒疹群のレスポンダーで1.0±1.4点、慢性皮膚瘙痒症群のレスポンダーで0点に低下していた。治療に反応しなかったのは、結節性痒疹群の2例が中年の白人女性で、慢性皮膚瘙痒症群の1例は白人男性だった。治療反応例と非反応例で、ベースラインのIgE値、血中好酸球数、糖尿病の有無に有意差はなかった。
重大な有害事象は発生せず
安全性について、追跡期間中に重篤または生命を脅かす有害事象は発生しなかった。最も多かったのは痤瘡様発疹の2例で、その他は頭痛、吐き気、頭皮の毛囊炎、咽頭痛、鼻閉、口唇ヘルペスだった。いずれも軽度で2週間以内に自然治癒した。有害事象によるアブロシチニブの中断例はなかった。
以上の結果を踏まえ、Kwatra氏らは「アブロシチニブ200mg/日の単剤療法は、成人の中等症~重症結節性痒疹および慢性皮膚瘙痒症に有効で、忍容性も良好だった」と結論。その上で、「治療反応例と非反応例の差異を同定するには、より大規模な二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験が必要である」と付言している。
(栗原裕美)