中国・Chinese University of Hong KongのShuting Wang氏らは、米国と英国で進行中の縦断研究Health and Retirement Study(HRS)とEnglish Longitudinal Study of Ageing(ELSA)のデータを用い、降圧薬を使用していない中高年の高血圧患者2,760例における血圧の変化を検討。中央値で6年追跡した結果、42%が降圧薬不使用で血圧の正常化(140/90mmHg未満)を達成し、このうち67%は正常血圧を4年間維持していたeClinicalMedicine2024; 73: 102678)に発表した(関連記事:「降圧薬で高齢者の湿疹性皮膚炎リスク上昇」)。

非喫煙、BMI正常化、禁酒などが血圧正常化に関連

 解析対象はHRS(2006~18年)とELSA(1998~2016年)の参加者のうち、初回血圧測定(ベースライン)時で心血管疾患(CVD)の既往がなく、降圧薬を使用していない高血圧(140/90mmHg以上)の患者で、その後も降圧薬不使用の状態を維持して血圧測定を1回以上行った2,760例。年齢中央値は60歳(範囲33~99歳)、男性が49.5%で、ベースライン時の血圧中央値は147/87mmHg、追跡期間中央値は6年(範囲2~19年)だった。

 解析の結果、ベースライン時と比べて最終測定時に6mmHg以上の収縮期血圧低下を示した割合は52%、3mmHg以上の拡張期血圧低下を示した割合は60%だった。主要評価項目とした最終測定時における血圧正常化の達成率は42%(95%CI 41~44%)だった。このうち平均4年、8年、12年にわたり正常血圧を維持していた割合はそれぞれ67%(同63~71%)、43%(同36~49%)、29%(同20~40%)だった。

 予備的解析として行った単変量解析では、ベースライン時での高学歴(P=0.008)、非喫煙者(P=0.002)、併存疾患あり(P<0.001)、感情障害あり(P<0.001)、糖尿病治療薬使用(P=0.004)、追跡期間中の禁酒(P=0.042)、BMI正常化(P<0.001)、糖尿病治療薬の使用開始(P=0.010)、脂質低下薬の使用開始(P<0.001)が血圧正常化と有意に関連することが示された。

血圧正常化でCVDリスク34%低下

 さらに、CVD発症前の降圧薬開始例などを除外した1,785例を対象にCVD発症リスクの探索的解析を行った。血圧正常化群では8,214人・年の追跡中に66例、高血圧持続群では8,773人・年の追跡中に100例がCVDを発症し、高血圧持続群と比べて血圧正常化群でCVDリスクが34%低かった(調整後ハザード比0.66、95%CI 0.47~0.92)。

 Wang氏らは「米国心臓病学会(ACC)/米国心臓協会(AHA)高血圧ガイドライン2017年版では140/90mmHg以上の全例に対し降圧薬の使用を推奨しているが、降圧薬なしで正常血圧を達成可能な高血圧患者が多かったという今回の結果に鑑み、一部の患者において少なくとも診断後数年間は管理を緩和してもよい可能性がある」と指摘。「今後の研究で、血圧正常化の予測因子を特定する必要がある」と付言した。

(太田敦子)