握力はグルコース処理やインスリン作用の重要部位である骨格筋の量と相関する筋力の指標であることから、2型糖尿病の管理指標になると考えられている。一方、坐位時間の延長は血糖コントロール悪化の危険因子として知られている。川崎医科大学糖尿病・代謝・内分泌内科学准教授の中西修平氏らは、日本人2型糖尿病患者270例を対象に、体重で標準化した握力(握力体重比)と糖尿病コントロールとの関連に坐位時間が影響するかどうかを単一施設後ろ向き横断研究で検討。その結果、低握力かつ長時間坐位の群と比べて高握力群はHbA1cや体組成のコントロールが良好で、坐位時間の影響は高握力群で大きかったMalays J Med Sci2024; 31: 185-193)に発表した(関連記事「体重当たりの握力が糖尿病発症に関与」)。

握力と坐位時間で4群に分類 

 解析対象は、2021年7~12月に川崎医科大学病院の糖尿病外来を定期受診した20~80歳の2型糖尿病患者270例。ベースラインでの全体の平均値は、年齢が63.8歳、HbA1cが7.31%、BMIが25.8、ウエスト周囲長が93.9cm、腹腔内脂肪面積が123cm2だった。

 左右の握力測定の平均値を体重で除算した握力体重比の中央値(男性0.47、女性0.34)と坐位時間の中央値(360分/日)に基づき、対象を①低握力・長時間坐位(LL)群、②低握力・短時間坐位(LS)群、③高握力・長時間坐位(HL)群、④高握力・短時間坐位(HS)群の4群に分類し、各種コントロール状況を比較した。HbA1cは7%未満、BMIは男性27/女性25未満、ウエスト周囲長は男性85cm/女性90cm未満、腹腔内脂肪面積は100cm2未満をコントロール良好と定義した。

 年齢、性、糖尿病治療薬数を調整後のロジスティック回帰モデルによる解析の結果、HbA1cコントロール良好のオッズ比(OR)はLL群と比べてHS群で有意に高かった(OR 2.01、95%CI 1.00~4.03、P=0.049)

 また、LL群と比べHL群とHS群はコントロール良好のORがBMI、ウエスト周囲長、腹腔内脂肪面積のいずれでも有意に高かった(BMI:HL群 6.05、95%CI 2.58~14.18、HS群 11.86、同4.90~28.73、ともにP<0.001、ウエスト周囲長:HL群 3.76、同1.36~10.43、P=0.011、HS群 9.78、同3.86~24.77、P<0.001、腹腔内脂肪面積:HL群 2.46、同1.02~5.96、P=0.046、HS群8.88、同3.90~20.22、P<0.001)。

握力と坐位時間に応じた運動指導を行うべき 

 さらに、これらのコントロール良好のORはLL群→LS群→HL群→HS群の順に有意に上昇する正の傾向性が認められた(HbA1cの傾向性のP=0.025、その他の傾向性のP<0.001)。この結果について、中西氏らは「2型糖尿病患者のHbA1cはもとより体組成のコントロールにおいても、握力が坐位時間より重要である可能性を示唆している」と指摘。前向き研究を行って確認する必要があるとしている。

 また、日本人2型糖尿病患者を対象にした全国調査では、運動療法の実施率が約50%にとどまり、運動に関する指導を全く受けたことがない患者が30%に上った(J Japan Diab Soc 2015; 58: 265-278)。このような状況と今回の結果を踏まえ、同氏らは「2型糖尿病患者への身体活動に関する指導は、握力と坐位時間で評価した筋力に応じて調整すべき」と結論。「坐位時間は長いが握力が高い患者には、単純に坐位時間の短縮を奨励する。握力が低い患者では、坐位時間に関係なくレジスタンス運動を増やす。このような単純な指導方法が可能かもしれない」と付言している。

(医学翻訳者/執筆者・太田敦子)