フランス・Université de BordeauxのAnne Bénard-Laribière氏らは、フランスの全国保険償還データベースであるSNDS(Système National des Données de Santé)のデータを用いて、フルオロキノロン投与後30日以内に発症した自然気胸症例の発症オッズ比(OR)をアモキシシリン投与例と比較する症例-時間-対照(case-time-control;CTC)研究を実施。「フルオロキノロンとアモキシシリンの使用はいずれも自然気胸リスクの上昇と関連が認められたが、ORはアモキシシリンの方が高く、気胸の原因としては基礎疾患としての感染症の果たす役割の方が大きく、交絡因子となっていることが示唆された」とThorax(2024年10月11日オンライン版)に報告した。
コラーゲン毒性による肺結合組織への悪影響の可能性
自然気胸は外傷原因がなく、胸腔に空気が入る病態を指し、欧州諸国における自然気胸による入院率は10万人当たり11.6~22.7人と報告されている。呼吸器感染症を含むさまざまな感染症治療に使用されるフルオロキノロンは、コラーゲン毒性を有し、腱断裂や大動脈瘤/解離、網膜剝離といった重篤な有害事象の可能性が報告されている。肺結合組織にも悪影響が及ぶ可能性もあり自然気胸が増えることも考えられるが、抗菌薬と自然気胸との関連を検討した報告はこれまでにほとんどない。
そこでLaribière氏らは今回、フランスのSNDSのデータを用いて、フルオロキノロン曝露と自然気胸リスクとの関連を検討した。
適応による交絡をなくすためアモキシシリン曝露群でも検討
今回の検討に当たりLaribière氏らはCTCデザインを採用。自然気胸発症前30日以内(day-30~-1)の抗菌薬曝露をリスク期間とし、同一患者で自然気胸発症前180~91日以内(day-180~-151、day-150~-121、day-120~-91の30日間ずつ)を参照期間とした。
参照期間はリスク期間よりも前の時期にあるので、全体の曝露が増加傾向あるいは減少傾向にある期間では、曝露傾向バイアス(exposure-trend bias)が生じる。このバイアスをなくすために、イベント(自然気胸)を発症していない時間-傾向対照群(time-trend control)を設定し、症例-クロスオーバ(case-crossover ;CCO)解析を行うCTCデザインが開発された。
さらに、CTCデザインでも適応による交絡(confounding by indication)をなくすことはできない(フルオロキノロンが適応となる疾患そのものが自然気胸のリスク上昇と関連している可能性がある)ので、そのバイアスを除くため、同じCTCデザインでアモキシシリンを実薬対照とする解析を行い、自然気胸との関連を評価した。
フルオロキノロンにとっては安心できる結果
2017~22年に自然気胸で入院となった18歳以上の患者のデータを抽出。246例(男性63.8%、平均年齢43.0±18.4歳)がフルオロキノロンに曝露されており、そのうち63例はリスク期間(day -30~-1)に、128例は参照期間(day-180~-151、day-150~-121、day-120~-91のいずれか)に曝露されていた。一方、アモキシシリン使用後、自然気胸で入院となった患者は3,316例(同72.9%、39.4±17.6歳)で、そのうち1,210例はリスク期間に、1,603例はいずれかの参照期間に曝露されていた。
曝露傾向および他の因子で調整した自然気胸の調整後ORは、フルオロキノロン群が1.59(95%CI 1.14~2.22)、アモキシシリン群が2.25(同2.07~2.45)だった。
以上の結果を踏まえ、Laribière氏らは「フルオロキノロンとアモキシシリンの使用は、いずれも自然気胸リスクの上昇と関連したが、ORはアモキシシリンの方が高かった」と結論。
さらに「アモキシシリンにはフルオロキノロンで報告されているような結合組織に対する毒性はないので、自然気胸リスクのこの上昇は、個々の抗菌薬が原因というよりも、基礎にある感染症の役割が大きいのではないか。したがって、適応疾患による交絡が働いている可能性がある」と指摘し、「フルオロキノロンによる肺結合組織への毒性に関しては、安心材料といえるかもしれない」と付言している。
(医学ライター・木本 治)