アイルランド・Trinity College DublinのAnna M. Rosická氏らは、認知症に関する13の危険因子について、主観的認知および客観的認知との関連をスマートフォンアプリ「Neureka」を用いて評価した。その結果、主観的記憶障害は客観的認知と比べて、10の危険因子とより強い関連があったAlzheimers Dement2024年10月9日オンライン版)に発表。「健康人では、認知症の危険因子に対する主観的認知の感度が高いことが示された」と述べた(関連記事「入院中のせん妄、認知症リスクは5倍超」)。

3種のゲームと2件のアンケートに参加した3,327例が対象

 Neurekaは脳の健康に関する大規模なオンライン研究の促進を目的に開発されたアプリで、利用者はゲーム化されたさまざまな認知テストを楽しめる。今回は、2020年6月~23年7月にNeurekaの危険因子モジュールに参加した54カ国・3,327例(平均年齢45.74歳、男性33.0%)を対象とした。

 危険因子モジュールには、客観的な実行機能の認知評価尺度 (視覚的作業記憶、認知的柔軟性、モデルベース計画能力)に関する3種のゲーム、主観的認知を評価する2件のアンケート、潜在的に修正可能な13の認知症危険因子(教育、社会経済的地位、うつ病、孤独、社会的な人との交流、聴覚障害、耳鳴り、脳卒中糖尿病高血圧、喫煙歴、運動、家族歴)が含まれており、ゲームとアンケートはランダムな順番で交互に提示された。

女性では主観的記憶障害を報告する傾向が強い

 検討の結果、3つの客観的認知尺度と主観的記憶障害との関連は弱く(r=0.06~0.16)、高齢者ほど視覚的作業記憶(偏回帰係数β=0.07、95%CI 0.04~0.11)、認知的柔軟性(β=0.13、同0.10~0.17)、モデルベース計画能力(β=0.07、同0.03~0.10)と年齢との関連が強くなり(全てP<0.001)、高齢群では曲線が急峻だった。

 主観的記憶障害との関連は高齢者ほど有意に強かった〔オッズ比(OR)1.04、95%CI 1.01~1.07、P=0.021〕が、主観的記憶障害に対する年齢の有意な二次効果は認められなかった。

 視覚的作業記憶に関しては男女差はなかったが、男性に比べて女性は認知的柔軟性が高く(β=-0.04、95%CI -0.08~-0.01、P=0.012)、モデルベース計画能力が有意に低く(β=0.05、同0.01~0.08、P=0.010)、主観的記憶障害を報告する傾向が強かった(OR 1.24、同1.15~1.34、P<0.001)。

教育、うつ病、社会経済的地位は全ての客観的認知と関連

 3つの客観的認知尺度は13の危険因子のうち教育、うつ病、社会経済的地位と有意に関連しており(全てP<0.001)、認知機能の低下はリスク上昇と関連していた。

 モデルべース計画能力は、その他の10の危険因子と有意な関連はなかったものの、視覚的作業記憶と認知的柔軟性はいずれも脳卒中(P≦0.001)、高血圧(P<0.001)、孤独(P<0.001)、喫煙歴(P≦0.001)、社会的な人との交流(P≦0.001)と有意に関連しており、認知機能の低下がリスク上昇と関連していた。加えて、視覚的作業記憶は糖尿病(P=0.002)と、認知的柔軟性は聴覚障害(P=0.001)と有意に関連していた。耳鳴り、運動、家族歴との関連はなかった。

 なお主観的記憶障害は、家族歴、糖尿病高血圧を除く10の危険因子と有意に関連していた

健康人では主観的認知の感度が高い

 続いてRosická氏らは、3つの客観的認知尺度について、全ての認知アウトカムに対する13の危険因子の影響の大きさを比較検討した。

 客観的および主観的な認知尺度は危険因子との関連の強さが異なり、3つの客観的認知尺度と比べて主観的記憶障害は8つの危険因子(うつ病、社会経済的地位、聴覚障害、孤独、運動、喫煙歴、耳鳴り、社会的な人との交流)とより強い関連を示した

 この8つの危険因子のリスクが高い場合、主観的記憶障害のオッズは27%→82%と55ポイント増加したが、視覚的作業記憶または認知的柔軟性の低下のオッズは0%→28%と28ポイントの増加にとどまった。これらの関連性はうつ病を調整した後も持続し、年齢は喫煙歴と主観的記憶障害以外の危険因子との関連を緩和しなかった。

 以上を踏まえ、同氏らは「主観的記憶障害はアプリを介して評価される客観的認知よりも、自己申告に基づく認知症の危険因子と強く関連することが明らかになった。健康人では、認知症の危険因子に対する主観的認知の感度が高いことが示された」と結論している。

(編集部・渡邊由貴)