非局在性一過性神経発作(TNA)は脳卒中のリスクを高めると示唆されているものの、最適な臨床的アプローチは依然として不明である。オランダ・Erasmus University Medical CenterのBernhard P. Berghout氏らは、前向きコホートロッテルダム研究の高齢者データを用いて脳卒中をはじめとする心血管疾患(CVD)との関連性を検討し、結果をNeurology2025; 104: e210214)に報告した。

一過性脳虚血発作と同様の脳卒中予防の必要性は不明

 TNAは神経症状の一時的な発作(持続時間24時間未満)で、症状に応じて局在性、非局在性、混合性に分類される(Stroke 1997; 28: 768-773)。局在性TNAと混合性TNAは、典型的TIAおよび非典型的一過性脳虚血発作(TIA)とも呼ばれ、脳梗塞の前兆として知られている。さらに混合性TNAは、冠動脈疾患(CHD)のリスク上昇と関連する。

 局在性TNAおよび混合性TNAの予後についてはエビデンスが十分確立されている一方、非局在性TNAに関しては限定的だが発症後の血性脳卒中のリスク上昇が示唆されている。

 病院ベースの研究によると、高齢の非局在性TNA患者で脳卒中リスクが高いとされるが、追跡期間が短いなどの理由からリスクは定かでない。そのため、非局在性TNAにおいてもTIAと同様の脳卒中予防管理が必要なのかという課題が残る。

 そこでBerghout氏らは今回、45歳以上のオランダ人を対象としたロッテルダム研究のデータを用いて非局在性TNA後のCVDリスクがTIAと異なるかどうかを検討した。

 同氏らは、ロッテルダム研究において1990~2020年の追跡期間中にTNAを初めて発症した1,208例(局在性56.21%、非局在性30.79%、混合性13.00%、平均年齢76.94±9.25歳、女性65.40%)を抽出。TNA診断日の時点で年齢と性が類似した未発症の参加者2,416例(平均年齢76.92±9.26歳、女性65.40%)と1:2でマッチングさせた。

 TNAの定義は、TNA以外の診断の明らかな証拠がなく、24時間以内に消失する突然の神経症状の発作とし、非局在性TNAは非局在性症状のみを伴う発作で、局在性症状を伴う場合はTIAと見なした。

脳卒中、心疾患との有意な関連認めず

 2万7,833人・年の追跡で230例(19.0%)が脳卒中を、94例(7.8%)がCHDを発症し、非TNA例はそれぞれ250例(10.4%)、176例(7.3%)だった。ベースライン時の人口統計学的特徴およびCVDリスクを調整後のハザード比(HR)を算出。その結果、非局在性TNAはあらゆる脳卒中の発症リスクとの有意な関連が認められず(HR 1.25、95%CI 0.89~1.77)、脳梗塞発症リスクとも有意な関連はなかった(同1.26、0.76~2.08)。

 さらに非局在性TNAは、CHD(HR 0.80 、95%CI 0.49~1.31)、急性心筋梗塞(同0.89、0.51~1.56)とも有意な関連が見られなかった。

 一方、TIA発症例ではあらゆる脳卒中(HR 2.55、95%CI 2.04~3.19)および脳梗塞(同2.51、1.88~3.35)の発症リスクが有意に高まることが明らかになった。

 以上を踏まえ、Berghout氏らは「非局在性症状のみを特徴とするTNA患者では、発症後のCVDリスクの有意な上昇は認められなかった。今回の結果から、TIA患者に求められる脳卒中の予防戦略について、TNA患者でも開始することは適切でないと考えられる」と述べている。

(編集部・田上玲子)