米国において妊娠中の大麻使用が増えている。その動機はさまざまだが、不安やストレスなど精神面の問題への対処を理由に挙げる女性も多い。ただ、気分障害と物質使用の因果の方向性を明らかにするのは困難である。米・Washington University in St LouisのAnna Constantino-Pettit氏らは、前向きコホート研究によって妊娠中の大麻使用の動機を調査し、大麻使用と精神面の症状との関連を検討。妊娠中に大麻を使用しても抑うつ症状やストレス症状の変化に大きな影響を与えず、大麻使用により症状が早く改善するわけではなかったJAMA Netw Open2024; 7: e2451597)に報告した(関連記事「薬物依存に対するハームリダクションとは?」)。

妊娠第1~3期に分けて検討

 2019年7月~24年1月に大学病院などの産科で過去に習慣的な大麻使用歴のある妊婦を登録し、妊娠期間中の大麻使用の有無と使用の動機、大麻使用と精神症状の変化との関連を検討した。活動性の精神病、自殺企図歴のある者、多胎妊娠、生殖補助医療の使用者は除外した。さらに、妊娠発覚後の大量飲酒や違法薬物・催奇形性リスクがある薬物の使用歴のある者、妊娠中の尿検査でそれらの物質が検出された者も除外した。

 妊娠第1~3の各期に、抑うつ症状をエジンバラ産後うつ病質問票により、ストレス症状をCohen知覚ストレス質問票により評価し、大麻使用者における自己申告による使用頻度を5段階(なし~週4回以上)で記録した。また、妊娠第1期において大麻使用の動機(10個の選択肢より選択。複数回答可)を調査した。

 次に、大麻使用動機を(1) 精神面の理由(「不安・ストレスへの対処」および「精神面の問題への対処」)か(2)その他-に分類し、線形成長曲線モデルを用いて、妊娠第1~3期における抑うつスコアおよびストレススコアの変化と大麻使用との関連を検討した。

精神的問題に対処するため大麻を使用しても症状の早期改善はなし

 合計504例〔年齢中央値(IQR)26(18~40)歳〕を組み入れ、このうち236例(46.8%)が妊娠発覚後に大麻を使用したと報告した。大麻使用の動機で最も多かったのは「悪心・嘔吐への対処」(73%)で、次いで空腹・食欲不振への対処(66%)だった。精神面の理由を挙げたのは137例(58.1%)で、他の理由を挙げた者(99例、41.9%)よりも多かった。

 妊娠第1期から3期にかけて、抑うつ症状、ストレス症状、大麻の使用は、いずれも減少した〔傾き(推定値)はいずれも-0.29未満、標準誤差 0.23~0.7、すべてP<0.001〕。

 妊娠第1期における大麻使用群ほど、同期における抑うつ症状の程度が高かった(r=0.17、P=0.004)。同様に、妊娠第1期から3期にかけての抑うつ症状の変化と大麻使用の変化の間には正の相関が認められた(r=0.18、P=0.01)。一方、ストレス症状に関しては、妊娠第1期におけるストレス症状と大麻使用の間には正の相関が認められたが(r=0.14、P=0.004)、両者の経時的な変化の間には相関は認められなかった。

 精神的健康を理由として大麻を使用したと報告した137例は、いずれの妊娠期においても最も高い抑うつスコアを示したが、抑うつの変化率は大麻を使用していない群と統計学的に同等だった。一方、精神的理由以外で大麻を使用した群では、抑うつやストレスのスコアは低く安定していた。

 これらの結果を踏まえ、Constantino-Pettit氏らは「妊娠中の大麻使用が、大麻を使用しない場合と比べストレス症状や抑うつ症状を著明に減少させることはないと分かった。また、精神的問題への対処を理由に大麻を使用しても症状が早く減少することはなかった」と結論。「精神面の問題を抱える人の大麻使用を警戒し、実証されている抑うつ・ストレス治療に妊婦がアクセスしやすくなるような対策が求められる」と付言している。

1. 悪心・嘔吐への対処、2. 不安・ストレスへの対処、3. 空腹や食欲不振への対処、4. 不眠への対処、5. 精神面の問題(うつやPTSDなど)への対処、6. 娯楽目的、7. 活力アップ、8. 痛みへの対処、9. 止めると落ち着かないため、10. その他

医学ライター・小路浩史