重篤な遺伝性筋疾患、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)に対する各種治療法の有効性は限定的である。国立精神・神経医療研究センター(NCNP)トランスレーショナル・メディカルセンター長の小牧宏文氏らは、DMDに対するアンチセンス核酸医薬エクソン44スキッピング薬brogidirsenを開発、第Ⅰ/Ⅱ相試験で安全性と有効性が認められたとCell Rep Med2024年12月31日オンライン版)で報告した(関連記事「デュシェンヌ型筋ジストロフィーの新薬候補、先駆的医薬品・希少疾病用医薬品に指定」)。

重篤な有害事象ない

 DMDは遺伝子の変異によりジストロフィンが欠損し発症する遺伝性筋疾患。アンチセンスオリゴヌクレオチド(ASO)を用いたエクソンスキッピング療法は、ジストロフィンを部分的に回復させるが、現在は変異特異的で有効性は限定的である。そこで小牧氏らは、エクソン44を標的とするエクソン44スキッピング薬brogidirsenを開発。同薬の安全性と有効性を非盲検、用量漸増、第Ⅰ/Ⅱ相試験で検討した。

 対象はNCNP病院と鹿児島大学病院で登録された4~13歳のDMD患者6例。患者はDMDエクソン45~54と45の欠失を有するが、全員が歩行可能だった。

 試験のパート1は用量設定段階 (4週間) で、brogidirsenが4用量レベル(1.62、10、40、80mg/kg)で週1回静脈内投与された。パート2はパート1で決定された投与量に基づく24週間の評価期間で、40または80mg/kgが毎週24週間投与された。

 安全性の検討では、最高用量(80mg/kg)で発生した薬剤関連の有害事象は1件のみで、重篤な有害事象はなく、パート2で用量に関連する安全性または忍容性に関する懸念はなかった

用量依存的にジストロフィンが増加

 生検した筋肉におけるエクソン44スキッピング効率は、6例全例でベースラインから治療後にかけて増加した。全体ではベースラインからの平均変化は大きく(32.10%、P=0.03)、ベースラインからの平均変化はコホート2(80mg/kg)の方がコホート1(40mg/kg)よりも大きかった(34.64% vs. 29.56%)。

 生検した筋肉におけるジストロフィン蛋白質発現レベルは、治療に伴い各患者でベースラインと比べ増加し、全体で有意に高いレベルに達した(正常値の20.55%、P=0.0022)。コホート2ではコホート1よりも発現レベルが高かった(24.47% vs. 16.63%)。

 筋肉の損傷や変性のバイオマーカーである血清クレアチニンキナーゼ値は、治療、時間の経過に伴い低下傾向にあった。また治療による運動機能の明らかな改善はなかったが、運動機能は維持され、全般的に改善傾向が見られた。

 患者の血漿を用い蛋白質の網羅的発現解析を行った結果、DMDで高値であることが知られていたタイチン(TTN)、ミオメシン2(MYOM2)、ミオシン軽鎖PF(MYLPF)がジストロフィンの回復に伴い低下し、繊毛神経栄養因子(CNTF)の上昇、ペプチジルアルギニンデイミナーゼ2(PADI2)の低下も認められ、バイオマーカーとなることが示唆された。

 さらにDMD患者の尿由来細胞を使用したin vitroの評価でも、brogidirsenの有効性が裏付けられた。

 以上から、小牧氏らは「エクソン44スキッピングが可能なDMDの歩行可能な患者6例を対象とした第Ⅰ/Ⅱ相試験で、brogidirsenは24週間、最大80mg/kgの用量で安全で、薬物動態も良好であることが示された。重篤な有害事象はなく、試験を中止した者もいなかった。患者全例で、治療後にエクソン44スキッピングとジストロフィン蛋白質発現の顕著な誘導が認められた」と結論。なお現在、同試験は延長中だという。

医学ライター・大江円