指定難病の1つで、内軟骨性骨化の異常により長管骨の成長障害を呈する軟骨無形成症(ACH)。線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)3遺伝子の機能獲得型変異によって引き起こされ、軟骨細胞の分化、軟骨基質の産生と増殖が抑制されて軟骨を介した骨成長が障害される。オーストラリア・Murdoch Children's Research InstituteのRavi Savarirayan氏らは、3~11歳のACH患児72例を対象にFGFR1~3選択的チロシンキナーゼ阻害薬infigratinibの安全性と有効性を検討する第Ⅱ相用量設定試験PROPEL2を実施。その結果、重大な安全性シグナルは検出されず、最大用量コホートでは18カ月時において年換算身長成長速度(AHV)の有意な増加が認められたN Engl J Med2025; 392: 865-874)に報告した。

用量で5つのコホートに分けて6カ月投与後、12カ月継続

 ACHは低身長、前額部突出、鼻根部平坦、下顎の突出などを特徴とし、水頭症、アデノイド、滲出性中耳炎をはじめとする合併症リスクが高い。治療は長らく成長ホルモンのみで、日本では2022年にFGFR3阻害薬ボソリチドが承認されたことで進展が見られる一方、1日1回投与の皮下注製剤であるため患者負担の大きさが課題となっている(関連記事「軟骨無形成症、25年ぶり新薬で新たな展開」)。

 経口薬として開発中のinfigratinibは、FGFRのリン酸化阻害を介してACHの病態生理学的原因の根源に直接作用し、発症に関与する主要な下流シグナル伝達経路の両方を減弱させることが期待されている。Savarirayan氏らは、ACH患児における同薬の安全性と有効性を検討する目的でPROPEL2試験を実施した。

 対象は、6カ国(英国、米国、スペイン、フランス、オーストラリア、カナダ)19施設で登録した3~11歳のACH患児72例(平均年齢7.50±2.20歳、男児30例、白人61%)。まず用量漸増期として、infigratinib用量に基づきコホート1:0.016mg/kg(8例)、コホート2:0.032mg/kg(19例)、コホート3:0.064mg/kg(16例)、コホート4:0.128mg/kg(16例)、コホート5:0.25mg/kg(13例)に割り付け、1日1回6カ月投与した。その後、治療継続期として12カ月間投与。コホート1、2の患児には6、12カ月時点で次の段階までの増量(0.016→0.032mg/kg、0.032→0.064mg/kg)を許可した。安全性の主要評価項目は試験薬の減量または中止に至った有害事象、有効性の主要評価項目はAHVのベースラインからの変化量、主な副次評価項目は身長zスコア、座高/下肢長比などとした。

有害事象は大半が軽度~中等度、中止例はなし

 72例中67例が18カ月のinfigratinib投与を完遂した。脱落は用量漸増期が2例(コホート2、5が各1例)、治療継続期が3例(コホート1、2、5が各1例)で、いずれも安全性および有効性との関連はなかった。

 安全性について、試験期間を通じ全例に少なくとも1件の有害事象が発生した。ただし、大半が軽度(54%)または中等度(39%)で、グレード4/5のものや試験薬中止に至ったものはなかった。グレード3は5例(7%)に認められ、内訳は水頭症、アデノイド肥大症、扁桃肥大症(コホート2)、睡眠時無呼吸症候群、脈管腫(コホート3)、桿菌感染症(コホート4)だった。

 がんを対象としたinfigratinibの試験で認められた高リン血症および眼の有害事象に関しては、コホート3の1例でグレード1の高リン血症が報告され治療を中断。中断後1週以内にリン値が正常化し、上昇が見られなかったため0.032mg/kg/日に減量して再開した。角膜や網膜の障害は報告されず、眼科検査でも認められなかった。骨年齢の進行促進、骨密度の変化、その他の骨に関連する有害事象は報告されなかった。

コホート5では11例中8例でAHVが少なくとも25%増加

 有効性については、用量漸増期の6カ月時におけるAHVのベースラインからの変化量は、コホート1で-1.82cm/年(95%CI -4.96~1.32cm/年)、コホート2で1.13cm(同0.47~1.79cm/年)、コホート3で-0.06cm/年(同-0.93~0.81cm/年)、コホート4で0.94cm/年(同0.15~1.74cm/年)、コホート5で3.38cm/年(同1.67~5.10cm/年)と、用量依存的な増加傾向が示された

 最大用量であるコホート5におけるAHVのベースラインからの変化量は、治療継続期の12カ月時が2.51cm/年(95%CI 1.02~3.99/年)、18カ月時が2.50cm/年(同1.22~3.79、P=0.001)と有意に増加した()。18カ月目には11例中10例(91%)でAHVの増加が認められ、8例(73%)ではベースラインより少なくとも25%増加した。これは身長zスコアの0.54(95%CI 0.35~0.72)増加に相当し、座高/下肢長比の平均値もベースラインの2.02から18カ月時には1.88に減少した(平均変化-0.12、95%CI -0.18~-0.06)。

図. コホート5における平均AHVの推移

N Engl J Med 2025; 392: 865-874)

 以上を踏まえ、Savarirayan氏らは「ACH患児を対象とした用量設定試験において、infigratinibの安全性が示された。最大用量コホートではAHVおよび身長zスコアの増加、座高/下肢長比の減少が認められた」と結論。「現在進行中の非盲検延長試験および症例数を増やしたプラセボ対照第Ⅲ相試験で、より長期の有効性と安全性を評価したい」と付言している。

編集部・関根雄人