インタビュー

睡眠障害、伊藤洋医師に聞く(上)=大きな社会的損失

 ◇脳にも影

  ―多大な損失ですね。具体的にはどのような内容でしょうか。

 伊藤 眠気による交通事故や転倒などの事故が増え続けていることです。交通事故の16~23%が睡眠不足、疲労による集中力と判断力の欠如や居眠り運転が原因とされています。例えば、バスやタクシーなどの運転士の3割以上が日中の眠気を自覚しています。睡眠時無呼吸症候群の患者は交通事故のリスクが3~4倍、ナルコレプシー(過眠症)の患者はリスクが10倍です。4時間程度の短い睡眠が2週間続くと、徹夜したのと同じぐらいに活動が低下します。このような原因で、交通事故の損失だけでも2413億円と試算されています。また、不眠は日中の眠気や疲労だけでなく、脳や臓器などの心身への影響も大きいことも分かってきました。

―脳への影響といいますと。

 伊藤 認知症の患者が睡眠障害になりやすいといわれていますが、米国の高齢者を対象にした調査によると、睡眠障害認知症のリスクを高めることも証明されています。アルツハイマー病は髄液中に蓄積するβアミロイドというタンパク質の濃度が高くなると発症します。通常は短時間で分解され、昼間に高く夜間に低いのですが、アルツハイマー病の患者はこのリズムが昼夜逆転しています。これが睡眠のリズムと関係しているのです。また、βアミロイドレベルが高い人は睡眠の質が悪く、同時に記憶のテスト成績も悪いという結果も出ていて、不眠の状態が長く続くと、脳の記憶をつかさどる海馬の容積が小さくなるということも分かっています。睡眠にはこのβアミロイドを洗い流す作用があり、睡眠は記憶など脳機能を正常に行うためには不可欠なのです。

 ―他にも病気のリスクはありますか。

 伊藤 うつ病の患者が不眠症状を訴えることはよくある一方で、不眠によってうつ病を発症するリスクは約2倍という調査結果もあります。睡眠不足による生活習慣病への影響も、少しずつ明らかになってきています。睡眠障害により心臓への負担が大きく、高血圧や心筋梗塞へのリスクや血糖値の上昇により糖尿病のリスクも高まります。これらの医療費や人的損失や経済的損失をすべて合わせると、睡眠障害に関連した社会的損失は年間3兆5000億円にも上ると推計されています。高齢化で高齢者の数が増えると、ますます膨らんでいきます。(ソーシャライズ社提供)


〔後半へ続く〕睡眠障害、伊藤洋医師に聞く(下)=薬に頼らず指導で


■伊藤洋医師 東京慈恵医科大学葛飾医療センター院長、日本睡眠学会理事長
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