軽視は禁物―急性虫垂炎
命に関わることも
急性虫垂炎は、早期に診断と治療を必要とする急性腹症の中でも最も頻度が高い。盲腸炎と呼ばれることもあったが、虫垂は盲腸の先端に付いている臓器で、盲腸とは別物だ。帝京大学医学部付属病院(東京都板橋区)下部消化管外科の橋口陽二郎教授は「近年ではすぐに手術を行う例は少ないですが、幼児や妊婦の場合は、特に注意が必要です」と語る。
初期には胃の周囲に痛みや不快感が
▽小児と妊婦は要警戒
盲腸は大腸の一部で、小腸とつながる部位にある。その盲腸から突き出た長さ7~8センチの袋状の臓器が虫垂だ。急性虫垂炎は、虫垂が腫れて炎症を起こす病気で、2歳くらいから見られ、10~20代に多いという。
原因の一つに、便が固まってできる糞石(ふんせき)が挙げられる。橋口教授は「腸内は、病原菌などの細菌から身を守るためにリンパ組織が発達していますが、糞石が虫垂の入り口をふさぐと細菌が繁殖して、炎症が起こりやすくなります」と説明する。
初期症状は胃のあたりの痛みや不快感で、吐き気や嘔吐(おうと)、微熱が出ることも多い。数時間すると次第に右下腹部に痛みが限定され、「炎症とともに、押した時よりも離した時に痛い反跳痛(はんちょうつう)が表れます」と橋口教授は話す。
最初は虫垂粘膜の表層のみの炎症(カタル性)だが、進行すると深部にまで炎症が及ぶ(蜂窩織炎=ほうかしきえん=性)。重症化して虫垂に穴が開き(穿孔=せんこう=性)、腹膜炎を起こすと、命に関わることもある。「小児の虫垂は薄く破れやすいので、急に症状が悪化するケースも少なくありません。また、妊娠中に急性虫垂炎から腹膜炎を合併すると、胎児の死亡や流産を招きやすくなります」と橋口教授。
▽治療選択は薬と手術
診断は、触診に加え血液検査や超音波検査、コンピューター断層撮影(CT)などが行われる。重症例でない限り、すぐに手術は行わず、抗菌薬を投与して様子を見る。「カタル性や蜂窩織炎性の大半は、抗菌薬で炎症が治まります」と橋口教授。経過観察後に腹腔(ふくくう)鏡による手術が行われるが、無症状であれば手術を受けるか否かは患者の意思に任される。
様子を見ずに手術を行うケースとして多いのは、〔1〕腹膜炎などの合併症がある〔2〕妊婦〔3〕糞石があり再発の可能性が高い〔4〕抗菌薬を投与しても症状が悪化する、または8時間を経過しても改善しない―を橋口教授は挙げている。
「急性虫垂炎はよく耳にする病気ですが、軽視は禁物です。抗菌薬を使っても30%以上は再発すると言われているので、主治医とよく相談して治療方針を決めてください」とアドバイスしている。(メディカルトリビューン=時事)
(2019/12/25 07:00)