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PCR検査は新型コロナ感染の「陰性証明」になるのか 岩田健太郎・神戸大学病院感染症内科教授に聞く

 新型コロナウイルスの感染を調べる「PCR検査」に、公的医療保険が適応されます。

 一般の人の間で「検査を受けて安心したい」「陰性の証明書が欲しい」という声も多く聞きます。

 しかし、現在行われているPCR検査の「陰性」を安心の判断材料にするのは、危険ではないかと心配です。

新型コロナウイルスの集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」から下船し、待機する防護服姿の関係者から額に測定機器のようなものを当てられる女性=2020年2月21日、横浜・大黒ふ頭【時事通信社】

新型コロナウイルスの集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」から下船し、待機する防護服姿の関係者から額に測定機器のようなものを当てられる女性=2020年2月21日、横浜・大黒ふ頭【時事通信社】

 検査で陰性だからウイルス感染していないと考えている人もいます。

 PCR検査をどう捉えればいいのか。

 新型コロナウイルスの集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」に入り、現場を目の当たりにした神戸大学病院感染症内科教授の岩田健太郎先生に聞きました。

 ◇「検査は間違える」

 海原 PCR検査をどう思われますか。

 岩田 検査は、病原体の非存在証明にはなりません。「検査は間違える」からです。従って、陰性が出た後に陽性になる患者が続発しています。

 また、ウイルスが見つかっても、症状がなければ、それは「病人」ではありません。

 海原 知らないうちに他人にうつってしまうことを恐れている人も多くいます。

 岩田 無症状の感染者が他者に感染させるかどうかは、議論のあるところです。

 しかし、少なくとも、せきなどをしている有症状患者よりも、感染性は弱いと考えるべきです。ましてや、無症状の感染者が病院に入院して看護師や医師たちを疲弊させる原因となってはいけません。

 ◇「安心が目標」の検査は有害

 海原 PCR検査の陰性に意味はないと。

 岩田 「安心」を目標とする検査は有害です。あくまでも、個々の患者のケアと日本の感染拡大防止に役に立たねばなりません。

 この感染症は、たいてい軽症で、自然に治りますし、重症化を防ぐ方法はありません。

 ですから、軽症患者や無症状者は家で安静にする方が、検査をするよりも、理にかなっています。

新型コロナウイルスによる肺炎患者の隔離病棟=2020年2月16日 、中国湖北省武漢市【AFP時事】

新型コロナウイルスによる肺炎患者の隔離病棟=2020年2月16日 、中国湖北省武漢市【AFP時事】


 海原 症状の有無の見極めが大切なのですか。


 岩田 重症化の懸念がある、あるいは、重症化の徴候があるならば、病院でのケアが必要なので、受診や検査が必要です。

 その場合、検査がたとえ陰性でも、隔離を続け、検査を繰り返す必要すらあります。

 ◇検査を乱発すると

 海原 PCR検査はどう使うべきなのでしょう。

 岩田 感染拡大の防止のためには、ある程度幅広く検査をしなければ、現状は理解できません。ここが、日本は若干弱いとは思っています。

 症例の定義を厳しくし過ぎているからで、見逃されているアウトブレイク(集団発生)がないか、皆が心配しています。

 保険診療でPCRができるようになれば、このような「見逃しアウトブレイク」を見つける道具になるでしょうが、かといって、みだりに検査を乱発すると、先ほど話した理由で失敗の方が多くなるでしょう。

 海原 PCR検査は陰性だから感染していないという証明にはならないということですね。適切な検査が行われるためには正確な知識の普及がその都度必要といえると思います。ありがとうございました。

(文 海原純子)

 岩田 健太郎(いわた・けんたろう) 1997年島根医科大学(現・島根大学)卒業。沖縄県立中部病院研修医、コロンビア大学セントクルース・ルーズベルト病院内科研修医を経て、アルバートアインシュタイン大学ベスイスラエル・メディカルセンター感染症フェローとなる。2003年に中国へ渡り北京インターナショナルSOSクリニックで勤務。04年に帰国、亀田総合病院(千葉県)で感染内科部長、同総合診療・感染症科部長歴任。08年より現職。


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