治療・予防

一般向け早期接種に課題
新型コロナウイルスのワクチン

 英国や米国で、医療従事者らを対象に新型コロナウイルス感染症のワクチン接種が始まり、日本国内でもワクチン接種への期待が高まっている。無症状の感染者が多く、発症後の特効薬がない現状では、ワクチンによる集団免疫の獲得が大きな意味を持つ。しかし、他の感染症のワクチンに比べて非常に短い期間で開発されたため、問題も残りそうだ。一般の接種が始まるまでに、解明しなければならない課題は少なくない。

英国での新型コロナウイルスのワクチン接種の様子(AFP時事)

 ◇即、希望者全員とはいかない

 2020年12月17日現在、世界で開発されている新型コロナのワクチンは、臨床治験に基づく臨床評価中が57、臨床評価以前が166だ。中には、治験の最終段階の第3相に達しているものや一部の国では既に承認されて投与が開始されているものもある。日本でもワクチンの早期承認と接種を望む声が強く、政府も動き始めているが、簡単にいくのだろうか。

 「たとえ、外国で通常の手続きとは違う方法で早期に接種が始まったとしても、日本国内での接種開始までには踏むべき手続きがまだあるし、研究の継続も必要だ。さらに、供給の問題もあるので、すぐに希望者全員への接種とはならないだろう」

 日本感染症医薬品協会理事長で、国立がん研究センター中央病院(東京都中央区)感染症部長の岩田敏氏は、こう語る。

米ファイザーと独ビオンテックが共同開発した新型コロナワクチン。日本国内での申請第1号。(AFP時事)

 ◇知見少ない新方式ワクチン

 開発中のワクチンは、新型コロナウイルスの遺伝情報をDNAやmRNA、ウイルスベクター=用語説明参照=の形で投与する新しい方式で製造されたものと、はしかやインフルエンザのように「弱毒化」した=用語説明参照=ウイルスや免疫反応を誘発するタンパク質(抗原)を投与する方式のものに分けることができる。

 「前者は、ウイルスの遺伝子の構造を分析できれば、早期に開発に着手できる。そして、このウイルスに免疫反応を引き起こす遺伝情報をDNAやmRNA、ウイルスベクターなどの形でワクチンとして投与し、免疫を記憶させて感染時に備える。ウイルスの培養や弱毒化などの作業や時間が不要なため、早期に開発が期待できる」と岩田氏は言う。

 現在、開発が先行しているファイザーやアストラゼネカなどのワクチンはこの方式で作られている。

 ただ、この方式で開発・実用化されたのは、エボラウイルスに対するウイルスベクターワクチンなど極めて少ない。「接種後どれくらい免疫が続くのか、長期的にどのような副反応(副作用)が出るのか、蓄積された知見が少なく、予見しくにい」という問題もある。このため製薬各社も、開発に時間がかかることを承知の上で既存のワクチンと同じように、弱毒化したウイルスやタンパク抗原を使ったワクチンの開発も進めている。

 ◇ワクチンに求められる低リスク

 一般の医薬品でも、新薬は効果や副反応の度合い、頻度を調べるために動物や人に投与し、効果と安全性を確認する必要がある。ワクチンは一般の医薬品に比べてこの確認基準が厳しくなる。これは、病気を治すために一定のリスクが許容される治療薬と異なり、感染症にかからないためのワクチンのリスクはより低くあるべきだ、と考えられているからだ。

 また、接種した後に、どの程度効果が持続するかも重要な点検項目だ。免疫を維持する「抗体価」=用語説明参照=は時間とともに低減する傾向がある。接種段階でどの程度、抗体価が上昇するかは治験などで確認できる。しかし、時間の経過による低減は、感染によって獲得した抗体価の変化と、ワクチンで得られた抗体価の変化が異なることがこれまでにもあった。このため、ワクチン接種後に時間をかけて抗体価の測定を続け、接種の間隔を決めていく必要がある。

 「新型コロナウイルスワクチン導入の際は、まずは感染リスクの高い医師や看護師、重症化の危険がある高齢者などに優先的に接種されると考えられている。その際の状況なども参考にしつつ、全国民の接種へ拡大していくのが良いのではないか」

米ジョージ・ワシントン大学病院で医療従事者に投与されるワクチン(AFP時事)

 ◇早期承認、慎重に判断を

 ワクチン実用化に向けた治験では、通常数万人に接種して有効性・安全性に関する情報が収集されているが、アレルギー性のショックのような健康被害が1件でも生じると、一般向けには認められない、とされる。しかも 、治験の際には、ある程度健康で持病のない対象者に絞って接種するため、承認後により広い範囲に接種して初めて問題が見つかるケースもある。

 岩田氏によれば、新型コロナに対するワクチンの早期承認・導入に関しては、有効性や安全性の評価に慎重な判断が求められる。このため「国内での臨床試験を実施した場合の参加者の健康状態を長期間フォローするとともに、承認後に接種を受けた人に対しても追跡調査が必要になるだろう」と予想している。

 ◇用語説明

 「ウイルスベクターワクチン」 ワクチンの対象となるウイルスを、無害な別のウイルスに組み込んで、そのウイルスごと投与するワクチン。

 「弱毒化」 ワクチンの対象となる細菌やウイルス毒性を弱め、感染症を引き起こす病原性をなくすか、極めて低下させること。

 「抗体価」 体内に細菌やウイルスなどの異物が侵入したときに、免疫活動としてその異物だけを攻撃する特定のタンパク質の値のこと。感染や予防接種で上昇する。(喜多宗太郎・鈴木豊)

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