インタビュー

肥満症、笠間和典医師に聞く(上)=減量外科手術、糖尿病にも期待

 肥満症は生活習慣病の大きな要因の一つで、解消すればさまざまな病気の改善が期待できる。治療は食事療法と運動療法がメインだが、体質的な側面もある。一度増えた体重を落とすのは難しく、ダイエットで一時的に痩せてもリバウンドを繰り返す人は多い。そこで注目されるのが減量外科手術。糖尿病改善の効果も期待されるという。国内の減量外科手術のパイオニア「四谷メディカルキューブ」(東京都千代田区)の笠間和典医師に聞いた。

 ◇BMI25以上

 ―肥満体形の人はよく見掛けますが、肥満症はどのような病気ですか。
 笠間 肥満と肥満症は医学的には区別されます。肥満は太っていることを意味しますが、肥満症は太っていることに付随して、何らかの健康障害(合併症)を有している状態を言います。世界保健機構(WHO)は、体格指数(BMI)が30以上の場合に肥満と定義していますが、日本は25以上を肥満としています。

 肥満は摂取カロリーが消費カロリーを上回ることで起きます。単純に食べ過ぎの場合もあれば、同じものを同じだけ食べても太る人がいます。つまり、生まれ持った遺伝子や腸内細菌が深く関係して太りやすい体質の人がいるわけです。食べることは人間の本質に立脚しています。ある程度太ってしまうと、ダイエットで一時的に痩せてもリバウンドする人が多く、自力で痩せるのは簡単ではありません。
 肥満は世界的に増えていて、肥満症が原因で病気が悪化し死亡する人が激増しています。米国人だけでも年間40万人以上が命を落としています。

 ◇耐性弱い日本人

 ―日本人には病的な肥満の人が少ないように思いますが、欧米と同じように増えているのでしょうか。
 笠間 30年前の日本は高度肥満の人はほとんどいませんでした。しかし、現代人の食生活やライフスタイルが変わってきたことで肥満症の人は増えています。それだけではなく、日本人を含むアジア人は欧米人よりも肥満耐性が弱いので、BMI25以上になると2型糖尿病や循環器疾患のリスクが欧米人よりも高いと言われています。つまり、日本人は低い肥満度でも合併症を起こしやすいのです。見た目はそれほど太っていなくても、肥満症と診断される人は少なくありません。2015年厚生労働省「国民健康・栄養調査」によると、BMI25以上の肥満者の割合は男性29・5%、女性19・2%と報告されています。

 ◇美容整形と異なる

 ―一般的に病院で行われる肥満の内科的治療はどのようなものですか。
 笠間 食事療法、運動療法の指導が中心で、基本は生活習慣病に対する生活改善と同じです。特別な治療は行いません。国内で認可されている肥満症治療薬は「サノレックス」1種類のみです。ただ適応はBMI35以上の人で、継続使用は最長3カ月間と限定されています。大抵の場合、耐性ができてリバウンドし元に戻ってしまうことが多いようです。海外には日本で認可されていない肥満治療薬もいろいろありますが、副作用もあり、私の知る限り、特効薬と言えるものは見当たりません。
 ―減量手術というと、美容的な目的で、脂肪吸引を行うイメージがあるのですが、減量外科手術はそれとは区別されるのでしょうか。
 笠間 世界中で一般に行われている減量外科手術は、美容整形の脂肪吸引とは異なります。減量外科手術の目的は、単に体重を落とすということではなく、肥満に伴う健康障害(合併症)を改善させることです。日本ではあまりなじみがありませんが、世界中で年間60万人が受けているポピュラーな治療法です。他の医学的手術と比較しても、執刀数ははるかに多く、上部消化管手術の中では世界で最も多く行われています。

 ◇米糖尿病ガイドラインに

 ―減量外科手術は海外ではいつ頃から行われるようになったのですか。
 笠間 1920年代には、胃の手術をすると、糖尿病が良くなることが知られていました。50年代になると、減量手術後にかなりの高い確率で糖尿病、高脂血症、高血圧が良くなるという、まとまった数の報告が出てきました。しかし当時は開腹手術しか行われておらず、合併症が多く死亡率も高かったため、本当に必要なとき以外は減量目的の手術は行われませんでした。90年代後半から2000年にかけて、腹腔(ふくくう)鏡手術が登場し、熟練した医師であれば合併症もなく安全に手術が行われるようになりました。これにより、腹腔鏡で減量手術を行う医師が増え、海外では一気に広がったのです。症例数が増えたことで、糖尿病に対して効果があるかどうかの研究が積極的に行われるようになり、現在まで動物実験も含め、さまざまな検証が行われています。
 ―減量手術による糖尿病改善の効果が科学的に証明されたということでしょうか。
 笠間 臨床試験には治療効果を正しく評価することを目的とした「ランダム化比較試験(RCT)」という方法があるのですが、肥満を伴う糖尿病患者に対しては従来の内科治療と比較して、減量外科手術がより優れた血糖改善効果を有するとの結果(レベル1エビデンス)が最近報告されました。糖尿病に対する治療法として外科手術が認められたと言えます。17年の米国の糖尿病ガイドラインでは、肥満を伴う糖尿病の治療法の第1選択肢として、外科手術が加えられています。
 日本では、糖尿病は「一生付き合う病気」というふうに指導されることが多いと思いますが、手術後は糖尿病に対する薬物治療が不要になることが多く、私たちは「寛解」と呼んでいます。薬物治療なしで血液検査上も正常の状態が5年続いた場合、prolonged remission(長期にわたる寛解状態)と呼ばれますが、これは患者さんにとっては治癒と言ってもよいかもしれません。(ソーシャライズ社提供)

〔後半に続く〕肥満症、笠間和典医師に聞く(下)=減量外科手術、糖尿病にも期待


新着トピックス