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提供:日本国際交流センター

途上国コロナ対策に生きた経験、新たな危機へ備え
~エイズ・結核・マラリアとの闘い20年~ ―グローバルファンドと日本の国際貢献―

 2020年初頭から私たちは、新型コロナウイルス感染症対策に翻弄(ほんろう)されてきた。新型コロナ感染症の大量報道の陰に隠れて見えなくなっているのが、エイズ・結核・マラリアに取り組む従来の活動だ。グローバルファンド(正式名称:世界エイズ・結核・マラリア対策基金、本拠地:ジュネーブ)は、保健分野では最大規模の国際機関で、2002年以来、低・中所得国の三大感染症対策の活動を資金面から支援してきた。日本は理事会や事務局のメンバーとしてその運営に貢献している。最新の成果報告書が発行された機会に、グローバルファンドに深く関わる日本人2人が、この20年間の成果とポストコロナ時代を見据えた今後の課題を語り合った。(司会は伊藤聡子・日本国際交流センター執行理事)



 司会(伊藤)まず、なぜエイズ・結核・マラリアか、というところから始めたいと思います。世界には、実に多くの病気があります。感染症だけをとっても、新型コロナ、エボラ、ポリオ、日本でも流行したデング熱などさまざまな感染症があります。それだけでなく、多くの健康課題もあります。グローバルファンドがなぜ、この三つの感染症に取り組むのかについて、國井先生から話していただけますか。

國井修・グローバルファンド戦略・投資・効果局長

 國井  今回の新型コロナについて、仏、独のリーダーらが「第二次世界大戦後最大の危機」と言っています。今回のコロナ感染症では、2019年末からの1年間で死者190万人、感染者8400万人が出ました。

 一方、1990年代に爆発的なパンデミックを起こしたエイズは、1年間で300万人以上の死者を出した年もあります。三大感染症は今でも年間250万人以上の死者が出ています。マラリアは現在、毎年2億2000万人以上の感染者がいます。結核は感染してまだ発症していないが、潜在性の人が多く、推定17億人の感染者がいます。数だけを見ても、そのインパクトの大きさが分かると思います。

 ただ、三大感染症はこれまで先進国への影響が少なく、見過ごされていた部分もあります。1990年代後半から2000年にかけ、国連の積極的な動きもあり、日本が議長国となった2000年の九州・沖縄サミットで、G8としては初めて感染症対策を議題として採り上げ、三大感染症対策に乗り出すことになりました。

 SDGs達成にも欠かせない、保健分野最大の国際基金―生みの親は日本

 司会 三大感染症対策は国連のSDGs(持続可能な開発目標)にも位置付けられています。

原圭一・外務省国際協力局参事官(地球規模課題担当)

  まず、2000年の国連ミレニアム開発目標(MDGs)で、三大感染症まん延の防止が採り上げられました。さらに、2015年9月の国連総会で、全会一致でSDGsが採択されました。その目標3で「あらゆる年齢のすべての人々の健康的な生活を確保し、福祉を推進する」という2030年までの達成目標が掲げられました。さらに、その細かな目標として、ターゲット3.3で、エイズ・結核・マラリアの終息が定められました。国際社会が一致団結して取り組むべき目標として掲げられました。国際社会で責任ある役割を果たすべく、日本としてもグローバルファンドへの支援を通じて、三大感染症の終息という大きな目標達成に向けて貢献していくことは当然です。

 司会  コロナでもよく話題に上りますが、感染症が終息するとは、どうなることを意味するのでしょうか。

 國井  SDGsでいう終息は、英語で“end epidemics”と言い、感染症を公衆衛生上の脅威と感じないレベルまで下げることを意味します。少し専門的になりますが、終息には大きく分けると三つの段階があります。

 ①天然痘のように、この世の中から完全になくす「根絶」という理想的なもの、②ある地域で新規感染者をゼロにする、または、世界全体でかなり少ない発生に抑える「排除」、③新規感染率や死亡率を減らしていく「制圧」――ということです。インフルエンザのように、突然変異のあるものは、制圧を目指す。マラリアのように、例えば一つの島でなくすことができるものは、排除を目指す。こんな具合に、病気ごとに終息の定義が変わり、目標が変わります。終息のために、感染者数をどこまで引き下げるかなどについては、病気ごとに国際目標がそれぞれ細かく決められています。

伊藤聡子・日本国際交流センター執行理事

司会  グローバルファンドと日本の関わりはとても深いものがありますが、その点について、原さんから説明していただけますか。

   日本はいち早く感染症対策についての重要性を指摘し、G8でも議題化してきました。國井さんも指摘されたように、2000年の九州・沖縄サミットで、議長国として日本は感染症対策を初めて主要議題として採り上げました。翌年のジェノバサミットで、グローバルファンド設立が合意され、2002年1月に発足となりました。その経過から、日本はグローバルファンドの生みの親と自負しています。生みの親だから放ったらかしていいわけではありません。しっかり育てていきます。拠出金額は世界5位で、また、設立以来、運営の意思決定を担う理事会メンバーとして関わってきました。グローバルファンドは保健分野で世界でもトップレベルの資金規模を持っているため、その存在は大きく、現場レベルで効果のある事業に結び付く適切な運営になるようにしなければなりません。

 司会  グローバルファンドは国連の機関でもなく、NGOでも財団でもありません。また、いわゆる投資のための官民ファンドでもありません。パートナーシップに基づく官民連携基金という存在は、なかなか理解が難しい面があります。國井先生は8年前に国連のユニセフから転職された理由の一つとして、パートナーシップ組織の可能性にひかれたとおっしゃっていましたが、詳しくお聞かせください。

 國井  もともと、医者になってアフリカで働きたい、という学生時代からの単純な思いがありました。緊急医療のNGOなどで働きました。留学などを経て、もっと多くの人を助けたいという思いで、国立国際医療研究センター(NCGM)や外務省、東京大学、長崎大学を経て、ユニセフへ移ったのですが、ユニセフ時代にグローバルファンドと接点がありました。ミャンマーは三大感染症による死者・感染者がアジアで最も多い国の一つでしたが、軍事政権によって活動が制限されたため、グローバルファンドがミャンマーから撤退しました。これは大変なことになるということで、多くのドナーが動いて政府にプレッシャーをかけたり、3Dファンドという代替えのメカニズムを創設したりしました。グローバルファンドの存在の大きさに気付かされましたね。

 パートナーシップについては、支援に参画する組織・団体によって違った意見・体質があり、思うように前に進まないことが多かったのですが、国連やNGO、市民社会など支援に関わるすべてのアクターがそれぞれの利害を調整しながら連携して仕事を進める、インセンティブとメカニズムをグローバルファンドが創ったと言えます。

 ◆新型コロナによる影響の光と影

 司会 1年ごとの最新の成果報告書が出ました。要点をお願いします。

 國井  2019年末から1年間で600万人の命を救いました。これでグローバルファンドが支援したプログラムによって、02年から20年末までに計4400万人の命が救われたことになります。実際に亡くならなかった人の数は数えられないので、数理モデルなどを活用して、実際に治療をした人、予防サービスを受けた人などのデータから算出しています。

 最新の報告書で浮かび上がった問題は、新型コロナ感染症の大きな影響です。毎年順調に伸びてきたエイズ・結核・マラリア対策の主要な指標上の実績が、初めて前年の実績を下回りました。重要な検査や治療、予防活動が中断、停滞した国も多くあります。そのため、新型コロナ感染症とも闘わなくてはなりませんでした。

 ロックダウンで診断キットや治療薬などが医療機関に届かない、交通手段がストップして患者も医療従事者も動けない、コロナが怖いので医療機関に行きたがらない――などさまざまな事情が重なりました。

コロナの三大感染症への影響

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