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食欲の秋に気を付けたい塩分取り過ぎ
~食べ方や調理法で減らす工夫を~ 医学博士 福田千晶
スポーツの秋、読書の秋、芸術の秋、そして食欲の秋。新米が出回り、ご飯がおいしくなる上に、サンマの塩焼き、まつたけご飯に栗ご飯、楽しみがいっぱい。他にもサケ、カツオ、きのこ、かぼちゃ、さつまいもなど、この季節は食欲を刺激されるものがたくさんあります。
日本の食事は季節感もあり、栄養バランスが整いやすく健康的と言われますが、塩分が多くなりがちなことが欠点です。
食欲を刺激する秋の味覚
◇塩分摂取の現状
塩分の取り過ぎが高血圧の原因や増悪につながることは、既に多くの人に知られています。高血圧は動脈硬化を進ませるため、脳出血、脳梗塞、心筋梗塞、腎不全などいろいろな病気を起こすことにもつながります。しかし、わが国では塩分を多く摂取している人も多いのが現状です。
厚生労働省「『日本人の食事摂取基準(2020年版)』策定検討会報告書」によると、健康な成人の日本人が目標にすべき1日の食塩摂取量は、男性で7.5グラム未満、女性で6.5グラム未満とされています。
高血圧の人に対しては、日本高血圧学会による「高血圧治療ガイドライン」では、1日6グラム未満を推奨しています。
また、世界保健機構(WHO)は、世界の人々の食塩摂取量を2025年までに、1日5グラム未満にすることを提唱しています。
しかし、現実は2019年「国民健康・栄養調査」の報告によると、日本人の成人の1日の食塩摂取量の平均は、男性10.9グラム、女性9.3グラムで、目標値をかなりオーバーしています。厚生労働省が推奨する食塩摂取量より、およそ3グラムも多く、WHOが提唱する食塩摂取量の約2倍も摂取しているのです。
50年前には、日本でも特に塩分摂取量が多い北陸地方では、1日に平均30グラムもの塩分を摂取していたと言われています。その頃に比べると、かなり減少した塩分摂取量ですが、もっと減らすべきというのが現実です。
サンマの塩焼きにしょうゆは不要かも
◇心掛けたい減塩
日本の食事では、みそ汁や漬物は定番です。さらに、食卓には常にしょうゆが用意されることがしばしばあります。
既に塩味が強い魚の塩焼きや干物、漬物なども、ついついしょうゆを掛けたくなります。しっかり味が付いているかまぼこやさつま揚げも、しょうゆを付けて食べたくなります。ハムやベーコンやソーセージにも、ソースやトマトケチャップなど加えることが、多くの家庭で当たり前になっています。
みそ汁だけでなく、うどんやそば、ラーメンなどは、汁やスープもおいしくて飲み干してしまいがちです。カレーライス、牛丼やカツ丼などの丼物も、ご飯と一緒に多くの塩分を取ることになります。
ラーメンとチャーハンのセット物になれば、摂取する塩分も倍増です。家でカレーライスを食べる時は、ついお代わりをしていませんか?
料理や食品に含まれる塩分は、各家庭や店舗や製造メーカーによって差はありますが、カレーライス1杯で2~3グラムの塩分が入っています。お代わりをすれば、摂取する塩分も2杯分になり、5グラム位になるわけです。同様に、薄めの味付けでも食事量が多ければ、トータルで摂取する塩分量は多くなります。
また、糖質オフを実行している人は白米を食べません。その分、野菜を多く食べたりして、褒めるべきことはありますが、野菜料理は塩分を使うことがほとんどですから、調味料の使い方にはかなり注意しないと摂取塩分量は増えがちです。
まず、習慣で掛けたり付けたりしている調味料は、味をみて必要な時だけ使うようにしましょう。きっと、サンマの塩焼きにしょうゆは不要です。かまぼこやハムも、そのもののおいしさが分かると、調味料は要らないと感じます。にぎりずしや刺し身に付けるしょうゆは、ほんの少しの方が、実はおいしさがよく分かります。とんかつやコロッケも、ソース無しで食べてみることをお勧めします。もし、ソースが欲しいなら、料理の上から掛けると多く使いがちです。小皿にソースを少量だけ注ぎ、そこにカツやコロッケを付ける方が使うソースの量は減らせます。
みそ汁は、1杯で1.2グラム程度の塩分があります。だしを生かして薄味にするとともに、豆腐、海藻、野菜などをたっぷり入れて具だくさんにして、汁量を減らすとよいです。汁物を入れる器も小ぶりなものに変えると、自然と食べるみそ汁の量は減り、減塩になります。
ラーメン、うどん、そばなどの麺類の汁やスープは飲み干さず、おいしくても健康のために残しましょう。ラーメン1杯で5グラムか6グラム、店によってはもっと多くの塩分が含まれます。スープまで飲み干すと、1日分の塩分に近い量を摂取してしまうのです。
米ニューヨーク市は、料理に含まれるナトリウムが1日の推奨摂取量(2.3グラム、食塩相当量で5.8グラム)を超える場合は警告マーク(黒い三角形)をメニューに表示するようレストランに義務付けている(AFP時事)
◇「排塩」も意識したい
塩分を取り過ぎないことは大切ですが、さらに塩分の排出を助ける「排塩」も大事です。カリウムは体内の余分な塩分を尿中に排出しやすくします。ですから、減塩を心掛けるとともに、カリウム摂取も意識しましょう。
ただし、腎臓病などではカリウム摂取を制限すべき状況もあります。高血圧で腎臓機能障害を伴う場合もあるので、治療中の病気がある人は、主治医に相談し教示に従ってください。
カリウムは多くの野菜や果物などに含まれます。野菜は毎食に最低でも1皿、1日なら5、6皿は食べたいものです。特に塩分を取り過ぎるラーメンには野菜のトッピングをお忘れなく。秋冬に好まれる鍋物はタレを付け過ぎず、さらに野菜をたっぷり食べましょう。
食パン(8枚切り)1枚には塩分が0.5グラム程度含まれています。ハムは2枚で塩分1グラム程度を含みます。ですから、パン2枚にハムを2枚挟んだサンドイッチなら、既に塩分は、およそ2グラム含まれています。サンドイッチにバターやマスタードやマヨネーズを塗ったり、塩を軽く振ったりすれば塩分はさらに増えます。そのサンドイッチの他に、スープ、卵料理なども加われば、塩辛い食事ではないにもかかわらず、1食に取る塩分はかなり増えます。ですから卵料理は塩分をごく少量に留め、カリウムを含む果物、野菜なども食べるようにしましょう。
スープは野菜たっぷりのスープにして、こしょうや酸味のアクセントを付けると、塩はほとんど入れなくてもおいしく仕上がり、減塩できます。ちなみにスープに使うコンソメ、みそ汁に使うみそ、使用頻度の大きいしょうゆなどは減塩の製品を選ぶことも良い方法です。
食欲の秋到来ですが、今年は塩分を取り過ぎないように留意しましょう。塩分を控えると、本来の味がより味覚を刺激して、おいしく感じることもあります。今年は、素材の味を楽しむ「健康的な食欲の秋」にしたいですね。(了)
福田千晶氏
▼福田千晶(ふくだ・ちあき)
慶応義塾大学医学部卒業、医師として東京慈恵会医科大学病院リハビリテーション科勤務を経て、クリニックでの診療と産業医業務を行う。勤務医時代に、エッセーや論文のコンテストでの受賞などをきっかけに執筆活動も開始し、健康に関するテーマで著書や監修書は多数。
日本医師会認定産業医、日本医師会認定健康スポーツ医、日本人間ドック学会人間ドック健診専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本東洋医学会漢方専門医、日本体力医学会健康科学アドバイザー。
(2021/10/08 05:00)
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