特集

ビッグデータ活用で医療費適正化推進
~総務大臣賞の佐賀市の介護予防DX(1)~ 21年度「第6回地方公共団体における統計データ利活用表彰」より

 特に、糖尿病が重症化して人工透析に移行すると、通院など1人当たりの年間医療費は500万~600万円になるともいわれており、糖尿病や高血圧等の生活習慣病は、フレイルや認知症、要支援・要介護の要因となる基礎疾患であることが分かっている。また、人工透析では、週3回の透析療法に1回当たり4〜5時間を要するため、QOLの確保・向上および健康寿命の延伸にも大きな影響を及ぼしている。

 これらのことから、当市においては介護の重度化予防が可能な疾病に着目した取り組みを柱とし、介護予防DXを推進しているところである。

 まずは、後期高齢者になる前の74歳までの国民健康保険における生活習慣病予防の取り組みや、高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施、通いの場である介護予防教室やケアマネジャーとの連携よる栄養指導について、具体的な取り組みを紹介していきたい。

 ◇国保における医療費適正化の取り組み

 佐賀市の国民健康保険においては、人口減少や高齢化による後期高齢者医療への移行、被用者保険の適用拡大等によって被保険者数は減少傾向にあり、今後も減少が続く見込みである。また、被保険者数に占める前期高齢者の割合は、20年度で約43%であり、増加傾向にある。医療費総額は被保険者数の減少に伴い減少傾向にあるが、1人当たりの医療費は増加傾向にある。

 国保を取り巻くこのような状況の中、医療費の適正化は重点課題であり、さまざまな事業を展開している。

 主な取り組みとして、特定健診受診率向上事業、糖尿病性腎症重症化予防事業、適正服薬推進事業の三つの事業がある。

 一つ目の特定健診受診率向上事業は、当市が所有する過去の受診履歴、レセプトデータ等の情報からソーシャルマーケティングの手法を活用したデータ分析を行い、健診対象者の特性を把握して受診勧奨効果の高い対象者へ優先的に受診勧奨を実施するものである。受診勧奨後には、効果測定を実施し、次回の勧奨に向けて、通知内容や抽出基準等の協議調整を行っている。

 20年度からは、コロナ禍での受診率向上を目指し、年内に特定健診を受診した人を対象に、地元の温泉観光コンベンション連盟と連携した「温泉旅館ペア宿泊券」等をプレゼントする「早めに行っ得! 年内うけ得キャンペーン」も実施している。

 二つ目の糖尿病性腎症重症化予防事業は、全国と同様に当市においても、糖尿病の合併症である「糖尿病性腎症」が人工透析の原因の多く(約半数)を占めていることから、保健衛生部門の健康づくり課と連携した取り組みを進めている。

図表7

 本事業では、糖尿病未治療者、治療中断者および腎機能低下がある者を把握するために、過去6年間の特定健診結果等から、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)が6.5%以上の対象者の管理台帳を作成している(図表7)。台帳の対象者に対しては、地区担当の保健師が中心となり、適切な治療や生活習慣改善に結び付ける継続的な支援を行い、新規の人工透析患者数の減少を目指している(図表8)。

 特にハイリスク者については、佐賀市医師会の協力により年3回程度フォロー検討会を開催し、支援方法のアドバイスや医療機関との連携体制の検討をはじめ、個々の対象者に対して保健師や管理栄養士と連携した支援を実施している。

 三つ目の適正服薬推進事業は、即効性のある医療費の適正化と薬剤被害の減少を目的に、多剤・重複服薬者に対して服薬の適正化を図る事業で、17年度からの取り組みである。多剤投与や同一薬効の医薬品の服薬については、適正な受診や処方を促すため医療および調剤のレセプトデータを分析し、薬の服薬状況に課題がある対象者を抽出している。対象者には勧奨通知等で働き掛けるとともに、医療機関・薬局等の関係機関と連携して、被保険者の健康被害防止および医療費の適正化を図っている。

 今後も保険者として、特定健診の受診率向上や生活習慣病の重症化予防に向けた効果的な事業に取り組み、より良い成果が出せるような事業展開を図っていく。

図表8 特定健診後のフォロー体制

 ◇高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施

 高齢者の医療の確保に関する法律(以下、高確法)の改正が行われ、20年4月から「高齢者の保健事業と介護予防の一体的実施」(以下、一体的実施)という新たな制度が始まった。後期高齢者医療広域連合(以下、広域連合)が市町村に事業を委託し、後期高齢者の健康維持・フレイル予防に努める新たな仕組みである。

 本事業の特徴は、①高齢者の特性に合った保健事業を行うこと②市町村を中心とし、地域の関係者が連携体制をつくること③国保データベース(以下、KDB)システム等のデータを活用し、地域の高齢者の全体像を把握することで、必要な人に必要なサービスが行き届くように計画を立てること④保健事業にとどまらず、社会資源の活用等地域づくりの視点で取り組むこと⑤事業評価等による振り返りを行い、地域に合ったより良い方法を工夫していくこと──にある。市町村のこれまでの高齢者に対する保健事業を土台とし、より効果的・効率的に展開していくことが期待されている。

 当市では、74歳までの国保の高齢者には特定健診・保健指導を国保および保健衛生部門、65歳以上の高齢者への介護予防等を介護保険部門、75歳以上の健診は広域連合が実施するなど、制度や財源に応じて担当部門ごとに事業を実施してきた。そのため、おのおのが保有するデータや資源が共有されず、包括的な保健サービスを提供しにくい状況であった。

 一体的実施の事業に当たっては、企画調整を行う専任の医療専門職の配置が必要であり、当市では、高齢者全般に対する施策を行う高齢福祉課の保健師が従事している。具体的な取り組みとして、KDBシステム等を活用したデータ分析を行い、その結果に基づいて、地域の健康課題の明確化や対象者の把握および抽出等を行っている。対象者に対しては、地域を担当する保健師や管理栄養士等の医療専門職による個別的支援(ハイリスクアプローチ)や、通いの場等への積極的な関与(ポピュレーションアプローチ)を行っている。

 KDBシステム等を活用した医療費や重症化についての分析結果を見ると、75~79歳の1人当たりの医療費が最も高いことが判明した。特に認知症や脳血管疾患は重度化しやすく、介護の原因にもなることから、医療費に加えて介護給付費も増加させる要因になっている。そのため、当市では、心電図の所見で心房細動がある人や高血圧の人を個別的支援の対象者とし、21年度は100人に対してのフォローを行っている(図表9)。

図表9 ハイリスクアプローチの対象者と担当医療専門職

 また、生活習慣病等の重症化予防という点においては、保健衛生部門が行ってきた74歳までの糖尿病性腎症重症化予防の対象者の中で、引き続き支援が必要な者を選定し、後期高齢者の一体的実施の個別支援の対象者に加えることで、保険者が変わっても切れ目のない支援を行っている。個別支援を担当する医療専門職は、フリーの保健師や民間の管理栄養士に委託している。対象者への支援は家庭訪問が基本で、自身の高血圧や高血糖の状態について体の中でどのようなことが起こっているのかを一緒にデータを見ながら確認してもらい、必要であれば医療機関や地域包括支援センターへ橋渡ししている。

 一体的実施における介護予防教室等の通いの場への積極的な関与については、保健師によって地域の特性に合わせた健康教育を実施するなどの内容の改変に取り組んでいる。

 一体的実施に当たっては、20年度から国保および保健衛生部門、介護保険部門の関係各課で十分に協議し、事業内容の共有と役割分担を確認している。今後も進捗(しんちょく)確認や情報共有を継続していくことで、関係各課が一体となって対象者に対し切れ目ない支援を行っていく。

 ◇介護予防教室等の通いの場

 介護予防教室等の通いの場については、当市では介護保険の地域支援事業の総合事業の中で、一般介護予防事業として取り組んでいる。主なメニューとしては、ダンベル体操を主体とした「センター版元気アップ教室」、iPadを利用した「脳若教室」、簡単な楽器演奏や歌唱を行う「音楽サロン」がある。筋力アップや認知症予防等の目的だけでなく、閉じこもり予防も兼ねており、身体的、精神的、社会的フレイルの予防に一定の効果が見られているが、ほとんどの事業の実施期間が3~4カ月と限られているため、継続的な予防事業の展開には至っていないことが課題として残っている。

 前述した一体的実施で関与する通いの場としては、運動を主体とする自主グループが市内に110カ所あるが、こちらは歩いて通える自治公民館等でグループの世話人となる人が主体となり、参加者が週に1回2時間程度集まって運動や会話を楽しむ。また同時に、高齢者の安否確認の場でもあることから、必要に応じて地域包括支援センターも関与している。これらの自主グループは十数年前から、地域からの要望に応じて週に1回の運動教室を4カ月ほど実施しており、教室開催中は運動習慣の定着と同時に世話人の育成や自主グループ運営のノウハウも提供している。開始当初はチューブやボール等を使用した運動やストレッチが主流だったが、17年からはダンベルを使用した筋力アップの運動(地域版元気アップ教室)に統一している(図表10)。運動プログラムの支援を行った事業所が教室終了後も年2回ほど定期的に通いの場へ顔を出し、運動継続の動機付けに一役買っている。また、保健師も年に1回は参加者の状態把握と健康教育を行っており、介護予防の普及啓発に努めている。今後は、自主グループの参加群と非参加群での医療費や介護給付費との関係性等の効果検証が必要と考えている。

図表10

 ◇ケアマネジャーとの連携による栄養指導

 先述した介護保険の地域支援事業の中の包括的支援事業には、地域包括支援センターの運営があり、地域ケア会議の充実が明記されている。地域包括支援センター(以下、包括)主催の地域ケア会議の個別事例の検討においては専門職のアドバイスが行われているが、医療や歯科に関する内容については、医療機関への接続や主治医との連携等、検討内容のゴールが比較的設定しやすい。しかしながら、栄養面に関しては、マンパワー不足やシステムが確立していないことから、アドバイスが生かせていなかった。そのため、21年度から、介護の重度化予防を目的に佐賀県栄養士会に「管理栄養士派遣事業」を委託し、ケアマネジャー(以下、ケアマネ)や包括から依頼された対象者に管理栄養士を派遣してアセスメントし、主治医と連携している。今後は対象者や家族、ヘルパー等への定期的な支援を行い、数値の改善等をアセスメントしていく。また、本委託事業はケアマネや包括とは別に、医療機関を退院する際の医療ソーシャルワーカー等からの依頼も受け付ける。退院直後は対象者の改善意欲も高いため利用につながりやすく、個人の状態改善はもとより、個別事例を経験していくことでケアプランの資質向上に資する狙いもある。21年度から本格的に開始した事業であるため利用件数は伸び悩んでいるが、今後は包括やケアマネ等の意見を取り入れつつ、活用しやすいものに改善していく予定である。(時事通信社「厚生福祉」2021年12月14日号より転載)

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